生活保護の増にみる社会保障制度

 生活保護の受給者が今年1月約209万人を超え、過去最多を更新し続けている。受給率の上昇をを懸念する一方で、中には生活保護の不正受給や働けるのに働かないで生活保護を受給されているというニュースもみる。大阪市では不正受給者を取り締まるために、警察官OBを雇用しているとのニュースもみた。この問題の背景はなんだろうか。日本はそれだけ、貧困が増えたのであろうか。
 日本国憲法第25条は、生活に困窮する全ての国民に対して文化的な最低限度の生活を保障しているが、なぜ、衣食住が不足したり、医療サービスを受けられない人々がいるのであろう。制度的には、公的年金最低賃金児童扶養手当など、様々な最低生活保障制度がある。これらをもってしても対応できない場合のセーフティネットとして「生活保護制度」がある。しかし、現実的には、公的年金最低賃金児童扶養手当など、様々な最低生活保障という側面から制度設計されておらず、生活保護制度に依存せざる得ない。公的年金である国民年金が加入期間にもよるが、生活保護費より低いという現実がそこにある。
 日本の生活保護の受給者の半分が60歳以上の高齢者である。また、生活保護費の約半分が医療費であり、その多くが精神関連の入院費のようである。こうしてみると、年金制度の充実や精神障害者への制度の充実により、生活保護の受給者は減少していくように思える。そのためには、若年労働者の収入増やフリーターからの脱却等がなければ生活保護予備軍が増えてくる。政府が各個人に対して、それぞれが生活に最低限必要な現金を無条件に給付する仕組みである「ベーシックインカム」を導入してはどうか、という考え方が生まれてくるのもわかるが、またこの財源はどうするということになり、これから、人口減少・少子高齢社会の日本において真剣に制度設計しなければならない。「税と社会保障制度改革」という名前はよいが、抜本的な社会保障制度の改革に取り組まなければ、増税だけで、日本経済の活力は落ち、生活保護はますます増えるだけである。日本経済をどう成長させ、雇用問題、国民一人ひとりの所得増を考え、そこから生活保障制度をどう設計するかを考えていかなければ今後の日本はあり得ない。でも、旧来の自公政権、マニュフェストを実現できない官僚任せの民主党政権にも消費税増税しか頭にはない。政権をとってもビジョンがない。われわれはどうすべきであろうか。みずから政治に参加するしか道はないのであろうか。全ての国民が政治に参加したのでは、日本の成長はない。政治屋でなく、政治家にすべきは、ボランティアで収入がへれば、自分の利害で動くことはなくことはなくなるのではないか。

 <おとなり日記 scrapdaysの日記 2012-04-08 「西成特区」で仰天改革案 生活保護受給者「就労所得貯蓄」で自立支援>
 大阪市橋下徹市長が活性化に向けた特区構想を打ち出した同市西成区で、生活保護受給者が働いて得た収入を行政側で積み立て、生活保護から抜ける自立時に一括返還して初期生活費に充ててもらう制度を導入するという改革案を、特区構想担当の市特別顧問、鈴木亘学習院大教授(社会保障論)がまとめたことが7日、分かった。区民の4人に1人が生活保護受給者という状況の中、受給者の就労・自立を促し、市財政を圧迫する生活保護費の縮減にもつながる一石二鳥の案としており、鈴木氏は近く橋下市長に提示する。不況を背景に、生活保護受給者数は全国的にも過去最多の更新が続いており、厚生労働省も同様の制度創設の検討に入ったが、自治体の事務量増大などの課題がある。西成区で制度が導入されれば全国のモデルケースとなる可能性もあり、成否が注目される。
 現行の生活保護制度では、原則として受給者の就労所得などが増えるとその分保護費がカットされるため「労働意欲の向上につながらない」との指摘がある。また、受給者が自立すると、それまで不要だった公的医療の保険料や医療費の窓口負担などが必要となり、自立時の生活費を圧迫する実情もある。鈴木氏の案では、西成区の受給者に自立支援プログラムによる5年間の就労義務を課し、収入は区の福祉事務所で貯蓄。自立時に返却するとしている。就労報酬額は、3年程度は最低賃金大阪府は時給786円)の適用除外として同400円程度とし、その後は最低賃金にすると仮定。企業側にも雇用義務を課し、若い労働者と雇用者のマッチングが図れるとともに、就労経験による技術習得にもつながるとしている。
 人口約12万人の西成区生活保護受給者は、今年1月現在で2万8412人にのぼり、大阪市全体(15万2703人)の2割近くを占める。市の受給者数は全国の市町村で最多で、平成23年度予算ベースでの生活保護費は、一般会計全体の約17%に当たる2916億円に達し、市財政を圧迫。縮減が喫緊の課題となっている。
 西成特区構想に向けた鈴木氏の改革案には、ほかにもトップエリート校の分校誘致など斬新なアイデアが盛り込まれている。橋下市長は、生活保護受給率や高齢化率が高い同区を一つの縮図ととらえ、「西成が変われば大阪、日本が変わる」として子育て世代誘致のための税減免などにも取り組む構えを見せており、今後描かれる街再生のための青写真が注目される。国がまとめた2035年の人口推計予測によると、西成区の人口は現在の約3分の2の8万人台に落ち込むとされる。中でも、日雇い労働者が多い「あいりん地区」では、現在の4割以下の7千人台に落ち込み、15歳未満が1%台となる一方、高齢化率は48%に達すると推測されている。平成17年の国勢調査によると、同区は高齢者人口に占める単身高齢者の割合が日本一の60・7%。中でもあいりん地区で高い割合を示しており、新たな人口流入を生み出すことが大きな課題となっている。
 鈴木氏は改革案で、灘高校のようなトップ進学校の分校設置などによる高レベル教育の提供を提唱。治安対策を強化し、子育て世代にとって魅力あるハード、ソフトを整備すべきだとしている。また、外国人バックパッカーらによる簡易宿泊所などの利用が増えている点にも注目し、産業としての観光振興も提案する。鈴木氏は「負の部分に蓋をする施策ではなく、将来の方向性を打ち出し、明るい施策を考えるべきだ。懐の深い街の特性を生かした西成の未来を、特区で実現したい」としている。

鈴木亘ブログより 「年金の積立方式はインフレに弱いという「永田町・都市伝説」」>
 橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会が提案している「年金の積立方式移行」に、最近、国民の関心が集まっているように思われる。しかし、年金の積立方式に関しては、既得権を奪われる厚労省が絶対反対の立場をとっており、間違った情報を大量に政治家、国民に流しているために、残念ながら、非常に誤解が多いのが現状である。積立方式に関する誤解は数々あるが、全く事実無根であるにも関わらず、国民や政治家に固く信じられているのが、「年金の積立方式はインフレに弱い」という俗説である。
 厚労省の教育が行き届いているせいか、特に、自民党民主党の政治家に、この説を固く信じている人が多い。先月、「ミスター年金」長妻元厚労相に呼ばれて意見交換をした際も、長妻氏の口からこの俗説が飛び出して、私は心底驚いてしまった。しかし、これは、日本の霞が関、あるいは永田町だけに蔓延る「都市伝説」である。経済学的には全く間違いであり、「年金の積立方式はインフレに弱い」等と言う事実は、金利が自由化した現代においては、全く存在しない。世界中で、厚労省やその取り巻きの「年金村」の学者・有識者厚労省ポチのマスコミ記者達のみが、「インフレが起きると積立金の価値が目減りするから積立方式は現実的ではない」という主張を続けている。こういうバカげた常識が霞が関と永田町に通用していると言っても、学習院大学の同僚の経済学者は、なかなか信じてくれないほどだ。
 先日、ニコニコ動画に出演した際も、共演した池田信夫先生や小黒一正先生は、「いくらなんでもこんなことを今どき信じている政治家は、まさかいないでしょう」と、全く取り合ってくれなかった。しかし、私がお会いした政治家の実に9割以上は、厚労省の説明を鵜呑みにして疑いすらしない。世も末なのである。確かに、戦後すぐや70年代初めのオイルショックの時期までは、金利が国に規制される「規制金利」の時代であったので、インフレで積立金の価値が目減するという現象がみられた。例えば、金利が5%で固定されているのに物価上昇率が10%になれば、マイナス5%の実質金利となるから、銀行預金や積立金の価値は5%ずつ目減りする。しかし、今は、そのような規制金利の時代ではなく自由金利の時代である。もし、インフレ率が10%になれば、金利はそれを織り込んで5%+10%で15%に引き上がることになる。これは経済学では、フィッシャー効果として良く知られている現象である(正確には、長期金利が「期待インフレ率」に連動する現象)。つまり、インフレ分を織り込んで市場金利が上昇しなければ、だれも預金をしなくなるし、誰も国債を買わなくなる。銀行などの金融機関が市場競争をしている中では、そんなバカな金利は放置されず、金利はインフレ分だけ必ず上昇するのである。例えば、企業年金は全て積立方式だが、インフレが起きて目減りして大変だという話を聞いたことがあるだろうか。私は全くない。銀行預金だって一種の積立金であるが、インフレで銀行預金が目減して暮らしが大変だと言う話は、自由金利になってこの30年ほどは無いはずである。また、デフレはインフレの逆であるから、デフレだと積立金、銀行預金の価値が上がるということになってしまうが、「デフレで銀行預金が増えてうれしい。ウハウハだ。」という話を聞いたことがあるだろうか。私は全くない。現在は、自由金利の時代であるから、金利がデフレ分を織り込んでほとんど0に近い水準に下がってしまっているので、規制金利下とは異なり、預金の価値は増えないのである。
さて、金利自由化が始まった70年代後半以降、両者の関係は良く連動していることがわかる。厚労省が主張する「積立制度はインフレに弱い」という俗説が間違っていることは一目瞭然である。厚労省が語る都市伝説を真に受ける自民党民主党の政治家が未だに大多数であることは、彼らの年金リテラシーの低さを表していると言えるが、年金問題がこれほど大きな政治課題になっている今、本当に困ったことである。「老後の生活資金は、インフレに弱い積立方式では価値が保てず不安であり、賦課方式を保つべきだ」等と公言する政治家たちは、老後のための資産として、自分たちは銀行預金を全くせず、子作りや養子受け入れに励んでいるのであろうか。もし、せっせと銀行預金をして、子ども・養子を増やしていないのであれば、それは論理的に破綻した行動であり、言行不一致であることに、早く気付くべきである。