まだ道路には雪の残る週末

 今日は、実家に行く。階段、道路の凍った雪かきに追われる。


2013.01.19放送 月刊寺島実郎の世界「第三期寺島文庫リレー塾2012」

木村>  今回は、「2013年という視点」というテーマでお送りします。
振り返ると、日本では年末に政権交代がありました。そして、その前にアメリカではオバマ大統領が再選されて二期目に入る年です。中国では習近平体制、韓国では朴槿恵さんが女性として初めての大統領になりました。このような事で迎えた2013年ですが、寺島さんは2013年の世界を見る軸をどこにおいているのか、そして、この年はどのような年になるとお考えになっているのでしょうか

寺島>  昨年末にも2013年の視点について話をしました。2013年のキーワードは米中関係で、アメリカと中国との関係がどうなるかがポイントだと申し上げました。更に、私は「エコノミスト」誌等も同じことを言っているという話をしたと記憶していますが、12月にワシントンに行って思いを新たにしてきました。 昨年の12月26日にNHK出版から『大中華圏』という本を出版して、今年に入り2週続けて日本橋にある書店の丸善へ行ってみたのですが、幸いにしてベストセラーの6位とか8位のあたりに置いてくれていました。

木村>  平積みという形で目立つ場所にも置いてあって、皆さんが注目している様子がわかりますね。

寺島>  中国関係の本が同じく沢山並んでいて、リスナーもこの視点で結論がどうなるのか息を呑むように見ています。例えば、中国とアメリカとの関係について、いま、『米中新冷戦の時代』、『米中百年戦争』等、米中の覇権争いの時代が来たということでアジア、太平洋を巡って米中の対立が今年の世界の大きなポイントなのだと言わんばかりの本が沢山並んでいます。そのような中に、私の『大中華圏』が置いてあるのですが、さて、そのどちらの見方が結論として時代を見抜いているのだろうかという、ある意味においての緊張感を込めて話をしています。
日本人の潜在意識の中に米中対立を願望しているような、アメリカと中国が対立を深めてくれれば、アメリカの日本に対する覚えめでたさが高まるのです。分り易く申し上げると、日米で連携して台頭する中国の脅威と向き合おうということで、昨年は特に反日デモに出くわして中国の難しさや、ある種の嫌悪感を感じながら中国を見ている日本人も多いと思います。
そのようにアメリカと中国の対立が高まっていく中で、日本を位置づけるものの見方がマスメディア的にも比較的に理解されやすいために、そのような方向感での議論が跋扈しているのです。そこで、安倍政権発足当初を思い出して頂きたいのですが、1月に訪米する計画を打ち出していました。しかし、アメリカ側が大変忙しいと断られて1月の訪米ならずという空気になっています。その理由は、日本側からすると中国の脅威と向き合うために、集団的自衛権まで踏み込んでアメリカへの手土産として、例えば、北朝鮮のミサイルがアメリカに向け発射されれば、日本も当然それに対して迎撃に参画すると言わんばかりの勢いで、さぞかしアメリカがそれを歓迎するだろうという空気で踏み込んでみたけれども、少し違和感を感じるのです。何故かというと、12月にワシントンに行った時、アメリカの日本問題に非常に理解のある立場の人たちでも、日本の火遊びに巻き込まれて米中戦争になるような方向に引きずり込まれたのではかなわないというような空気が伝わって来るのです。
日本側としては、アメリカと手を携えて麻生政権期に使っていた言葉で、中国封じ込めのために、「自由と繁栄の弧」と言って中国を取り巻く形で自由経済体制にある国がスクラムを組んで、力を合わせていこうというゲームを組み立てているつもりだと、アメリカも眉をしかめて、「あまり奇妙な力を入れないでもらいたい」という空気になってしまっているのです。その理由は、アメリカと中国との間には、枚挙にいとまがないくらいの懸案事項があることも事実で、例えば、貿易摩擦問題でアメリカの中国に対する貿易赤字が大きくて、中国は為替操作国だという苛立ちがあるという指摘もあながち間違いではありません。
 ただし、米中間の貿易赤字アメリカの企業が儲かる形で成り立っていて、アメリカの企業が中国に進出して工場から出荷され、それがアメリカに戻って来るように、アメリカに対して中国は輸出している物の約6割は、その種のブーメランだと言われています。したがって、それに介入するアメリカの企業が儲かる形で出来上がっている赤字で、日米貿易の赤字とは質が違います。以前、日本企業が儲かる形で出来上がっているアメリカの赤字とは性格が違うということに注目しようと話したことがあったと思いますが、いずれにせよ、そのような問題も横たわっています。他にも、人権問題、知的所有権の問題、更に、悩ましいけれども近隣諸国との南沙諸島問題、尖閣問題、もちろん、台湾関係の問題等もあって、米中間にはさざ波が立つ要素が沢山あることは間違いないのです。
 したがって、表面観察をしていると米中対立が一段と深まっていくのではないかという見方に引っ張られますが、実は、再三、繰り返しているようにアメリカと中国との間には殴り合っているように見えて、ぎりぎりの所で対立を回避して、しかもきちんと落とし所を見つけて調整をしていく弁が働いています。つまり、コミュニケーションのパイプが非常に太いのです。米中戦略経済対話の話もしたと思いますが、オバマ政権になってから毎年10人以上の閣僚が一堂に会して、アメリカから10人、中国から10人という形で北京とワシントンで毎年5月にエネルギー戦略から産業協力、安全保障の問題まで戦略対話の仕組みを積み上げていっています。
つまり、米国と中国との間には、分り易く言うと、アジア、太平洋、アメリカと中国とのG2、2つの国によって新しい秩序にもって行こうとするくらいの空気が漂っているということです。したがって、米中戦争の時代が来たという感じで悪ノリをしているのは大間違いで、私は『大中華圏』という本の中で、執拗に指摘していますが、アメリカと中国との歴史的関係を冷静に見抜く必要があると思っています。近代史におけるアメリカと中国との間には大袈裟に言うと相互に大きく期待し合う空気があって、つまり、中国において、かつて欧州の列強にアヘン戦争以来蝕まれている時に、ほぼ20世紀に差しかかる頃、1898年にアメリカとスペインとの戦争が行われて、米西戦争に勝ったアメリカがフィリピンを領有する形でアジアに出てきました。ペリーが浦賀にやって来た1853年から45年間のブラックボックスがあります。アメリカは南北戦争に手間取ったため欧州の列強が中国を蝕んだタイミングとは大きくズレて、45年間アジアに動けなかったのです。アメリカは遅れてきた植民地帝国としてアジアに登場してきました。このタイミングは日本が中国に日清戦争に勝って進出、あえて言うならば侵略という中に入っていったタイミングとがほぼ同時化しました。それが、20世紀の日米関係史の悲劇の始まりだったとも言われるわけです。その際に、中国の深層心理に近代史において欧州の列強、そして、日本に蝕まれているタイミングの中でアメリカが中国に登場してきたのはカウンターパワーとしてウエルカムだったのです。つまり、第三の勢力として、むしろ欧州や日本を抑えるカードとしてアメリカが機能してくることを期待して、それが事実、アメリカが中国の政策柱に門戸開放や機会均等といって、中国において有利なメッセージを発信しながら登場してきたのです。
今回は、そもそも論ということだけを申し上げておきますが、元々、米国と中国との関係は、近代史、つまり、20世紀の歴史と言ってもよいと思いますが、相手を期待し、持ち上げる空気が潜在しているのです。それは既に、1949年の共産中国の成立以降も台湾との間のコンフリクト(=conflict=対立)、アメリカは台湾を支援していたけれども結果的にニクソン訪中以降の歴史をみていてもわかるように、アメリカという国は、対中国政策において常に中国において米中間の会議に陪席していると「我々は一度も戦争をしたことがない」というメッセージ、エールを交換し合っているのです。これは正確に言うと義和団事変にアメリカは出兵しているので正しくはないのですが、それくらい米中間にはチャンピオン・メンタリティーという言い方があって、チャンピオンとしてお互い持ち上げて、チャンピオンとチャンピオンの意思疎通の中で、この大きなゲームを仕切っていこうという空気が漂っています。その空気が日米関係とは対照的で日米関係は抱き合っているように見えて蹴り合っていて、67年間もある種の同盟関係を続けながら、お互いを敬愛する気持ちが薄いのです。日本にしてみればアメリカの駐留コストを7割もって基地を引き受けているし、アメリカにしてみるとアメリカの青年の血を流してまで、何故、日本を守ってあげなければならないのかという思いが潜在しているのです。日米はお互いが敬愛し合う力学が働かない関係で、米中関係とは違うのです。そのことについて私は長い間、ワシントンと向き合ってきて感じている率直な印象なのです。
要するに、この段階で先ず、国際関係について今年注目しておくべきことは、アメリカと中国との関係がどのようになっていくのか、例えば、エネルギーにおける協力関係がどうなるのか、安全保障に関連して彼らがどのようなコミュニケーションを持つのか、このことが今後の日本を決める大きな要素になるためにしっかりと見抜いておかなければならないことが国際関係における最大のポイントです。
 もう一点、お話ししておきたいことがあって、国内についてです。安倍政権になって、なんといっても景気経済だろうという空気になって、調整インフレ論と言ってよいと思いますが、日銀に対して金融政策において、より金融緩和を求める空気と財政出動補正予算まで組んで財政で刺激を与えて日本経済を浮揚させようという政策論が極めて明確に見え始めています。ついこの間まで、昨年、三党合意という形で財政の規律が大事で日本の財政がひっ迫してきているから、なんとしてでも消費税を上げなければならないということで消費税を上げました。上げてどうするということで本当は税と社会福祉の一体改革で社会福祉のほうにそのお金を振り分けることで、なんとなく合意が形成されていたのですが、社会福祉の姿はまだ一向に見えないまま増税だと言っています。しかも、財政出動でその分がどこに向かっているかを決めないままに、日銀がよりお札を刷って市中に金が豊かに出回るようになれば20年続いたデフレから脱却できるだろうと国民の意識もデフレ・メンタリティーに幻滅感を感じているために株価や為替の形でアベノミクスがまだ何も発動していないのに効果を及ぼしているかのような感じで、民主党政権が漂わせていたようなある種の反産業的、反経済的な空気を一掃しようとすることもあって、なにやら期待感が高まることで御祝儀相場的に株価が上がったりしています。これをもう少し厳密に調整インフレ論によってどうなるのかということを我々は真剣に考えなければならない局面にきていることを今年のもう一つのテーマとして語っておきたいのです。
木村>  いま、世界の動きと日本の国内という2つの面で我々が何を軸としてこの時代、或いは、世界を、日本を見つめるべきなのかという寺島さんのお話がありましたので、後半にこの2つに触れながら、どのように歩んで行くのかということを伺いたいと思います。

木村>  寺島さんの前半のお話で、先ず、世界というお話で米中関係が軸になるという点なのですが、ここに触れて日本の今年の在り方で、「しかし」、と言うと日本は東南アジア外交に力を入れるということで、麻生さんがミャンマーに行ったことをはじめとして、外務大臣も東南アジア、安倍総理ベトナムインドネシア、タイ、つまり、このような動きをしているのではないのかという感じを受けるのですがいかがでしょうか。

寺島>  そのように捉えても仕方がないと思いますが、本当に東南アジア外交も大事なのですが、より近隣の国、中国、韓国といかなる信頼関係を確立し、それを一つのコアにしながら東南アジアに広域のアジア外交に立ち向かうことが重要で近隣の国との関係を過疎にしたまま、東南アジアとだけ関係を深めれば日本は相対的にアジアにおける力を発揮できるという考え方はおそらく間違いで、例えば、アメリカにおいても日本という国に対する期待感としてアジアに影響力を持っている国、同盟国日本でいて欲しいと思うはずなのです。それは、勿論、東南アジアに影響力を持つことも大事ですが、近隣の国と必要以上のもめ事を起こさないで信頼感を高めて日本の影響力が及ぶようなゾーンとして欲しいことがアメリカの期待感の本音だと思います。

木村>  そうすると、中国、韓国への外交、手詰まり感があって、苦し紛れに東南アジアという構造になってはならないということですね。

寺島>  それは駄目ですね。

木村>  そして、もう一つなのですが、アベノミクスで、これで本当に我々の暮らしがよくなるのか、社会がよくなるのでしょうか。

寺島>  これは市中にお金を出回らせて、徒花のようなマネーゲームに終わっていく可能性を避けなければならないのです。そのためにはこれをよい話にするには実体化という言葉を敢えて使っておきますが、つまり、マネーゲームのための金融緩和ではなくて日本の未来や日本の将来のために意味のある、実体のあるプロジェクトを金融緩和の中で実現できるのかどうかの知恵比べだと思います。例えば、シェールオイル革命と呼ばれているような時代に具体的に将来の日本のために海外に依存している資源をシェールガス革命、日本の海洋資源の開発等に立ち向かって、将来日本が海外に資源を依存しなくてもよいように一歩でも二歩でも布陣していく実体のあるプロジェクトにお金が回るかどうか等、或いは、日本の産業の弱点である食糧自給率の低さをこの機会にしっかりと注目して、現在の39%を50%とか60%まで高めるために、「農業」という基盤にお金をしっかりと回して、それは補助金助成金という意味ではなく、農業に活力を与えるための戦略投資として農業生産法人のようなものを舞台に、そこで若い人たちが年収400万〜500万貰って胸を張って働くことができる産業に農業を育て上げていくという新しい発想で、例えば、この分野で100万人近い雇用が創出出来れば、日本の産業や雇用等の問題において非常にプラスになるのです。
つまり、何を申し上げたいのかというと、日本の命は技術であり、技術を支える人材=人であり、そのようなところに活き活きと力を高めていく実体のあるプロジェクトをつくることができるかどうか、つまり、ひとえにそこにかかってくるのです。したがって、金融を緩和して財政出動すれば日本経済は上昇するのではないのかというのは3、4年前の上げ潮論であり、その議論の焼き映しのようなもので終わってはならなくて、21世紀にふさわしいICTの技術に対する注目や、バイオや先端的な医療等にしっかりとお金が回って、そこで若い人たちが胸を張って活躍できるような国にできるかどうかが、最大のポイントだと思います。

木村>  寺島さんが講演のタイトルとしても使っていらっしゃる「日本創生」、創り生み出していくという話題に今年も是非触れて、更に深めてお話を伺いたいと思います。



(1月19日生まれの偉人)
◆高辻 正己(たかつじ まさみ、1910年1月19日 - 1997年5月20日)は、日本の官僚、裁判官。竹下改造内閣法務大臣を務めた。内務省入省。戦後、地方自治庁部長などを経て、法制局次長時代に自衛隊を「必要最小限の戦力」と解釈する。1964年から1972年にかけて第1次佐藤内閣〜第3次佐藤内閣まで内閣法制局長官を務め、沖縄返還の時は法律面から佐藤内閣を支えた。1972年7月、佐藤首相の退陣とともに内閣法制局長官を辞任。1973年から1980年まで最高裁判所判事を務めた。1980年から国家公安委員会委員を務める。1988年12月、リクルート事件が騒がれていた頃にリクルートからの献金問題で長谷川峻法務大臣が辞任に追い込まれると、法律に詳しくリクルートとは無縁な点が評価され、残り2年の任期を残して国家公安委員会委員を辞任して後任の法務大臣に就任。リクルート事件の捜査終結を見届けると、1989年6月に竹下内閣総辞職とともに離任。