「最強経営者の思考法」(飛鳥新社)

◆「最強経営者の思考法〜松下幸之助孫正義から直接学んだ実践リーダー学」(嶋聡著・飛鳥新社
 本書は、松下政経塾2期生、元ソフトバンク社長室長という希少な経験を持つ著者が、この稀代の起業家2人の言葉を比較して「最強経営者の思考法」を論じた一冊。経営者にとっては経営のヒントを、会社員にとっては未来ある企業を見極めるポイントを、投資家にとっては飛躍する企業の条件を学べる、じつに興味深い内容です。著者の嶋聡さんは、1980年に松下政経塾の2期生として入塾し、松下幸之助さんご本人から、直接、指導を受けました。同塾卒業後は、指導塾員、研究所長、東京政経塾代表を務め、1989年に松下さんが亡くなる直前まで、薫陶を受けています。嶋さんは、1996年に衆議院議員選挙に立候補し、3期9年間を衆議院議員として国政を担いました。政界引退後は、孫正義さんを直接訪ね、ビジネス界のトップランナーになりたいのでソフトバンクで働かせて欲しいとお願いします。これが孫さんに受け入れられ、嶋さんは、2005年9月にソフトバンク社長室長に就任。社長室長に就いてからは、「孫正義の懐刀」とも呼ばれ、ソフトバンクの躍進を支えました。
孫正義
・ニッチを狙え、という人はバカ。私は30年後のど真ん中のど真ん中を狙った。
・新規事業を始めるときには、最初に必ず、私がグループ内で一番の専門家になる時期がある。
・成功したければ「運のいい人」と付き合え。
・10年以内にNTTドコモさんを抜きます(孫正義
・髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである。
・時代は追ってはならない。読んで仕掛けて待たねばならない。
・(孫正義はあらゆる産業の将来の規模を、政府刊行物センターで白書や報告書をかき集めて調べた。そして自動車産業、食品業界、医療産業など、数多くの産業のなかで、30年後に情報産業が最大の産業になると予測した。)迷ったときほど遠くを見よ。
・(孫正義は引き算方式で考えた。これでは2008年頃から始まる、スマートフォン革命に間に合わない。「時間を買わなくては」そう考えた孫正義は2006年3月、リスクがある第三の道を選択し、ボーダフォン日本法人を約2兆円で買収する。)2008年頃にスマートフォンの時代が来る。
・一番重要なのは、志です。
松下幸之助
・指導者は地位が高くなればなるほど謙虚でありたい。
・人々に理念の目標と理想を提示できない指導者は、指導者を名乗る資格はない。
・きょうまでの自分を考えてみると、やはり、90%が運やな。
・すべての人を自分より偉いと思って仕事をすれば、必ずうまくいくし、とてつもなく大きな仕事ができるものだ。
・寸分の隙もなく、一所懸命やっているけれども、余裕綽々としている。これこそ王者の姿だ。
・勝つか負けるかわからんというときには、しなかったらいいのや。勝つかもわからん、負けるかもわからん、やってみないとわからんという人がいる。僕はそんな頼りないことで勝負はようやらん。
・衆知を集めて、事を決するということと、多数決によって、事を決するということは、まったく異なることである。
・大阪に市電と言いますか、路面電車ができた。それを見てこれからは「電気の時代」と思いました。
・いまは、すき間、ニッチでも、最大の産業になる業界と、最後まですき間で終わる産業があるわけです。僕は、自分の人生を最後まですき間で終わるような業界に殉じるつもりはない。本当の政治家は100年先、200年先を考える。
・志を立てよう。本気になって、真剣に志を立てよう。生命をかけるほどの思いで志を立てよう。志を立てれば、事はもはや半ばは達せられたといってよい。
孫正義松下幸之助(二人から学ぶ)
 大戦を始める前に、小さな戦いで勝利し、味方の士気を高めるというのは兵法の基本である。孫正義は、買収当時、営業利益がどんどん下がっていたボーダフォン日本法人は、「あと1年待てばさらに安くなるのでは」という意見もあった。しかし、安く買うのが目的ではない。もう1年待つと、モバイルインターネットの夜明けである2008年頃に間に合わない。値段よりもタイミングをとって、孫正義は決断したのだ30年後に何が流行るか予想して
その業種で世界一のシェアを取っていると仮定。そうなるためには、30年後から引き算でこの時点ではこうなっていないといけない、あの時点ではこう、と手を打つ。まさに、「三」の退却戦を行なう勇気こそが、「七」の勝利を下支えする。「情報革命で人々を幸せにする」。将来を予測して大風呂敷なビジョンを提示する。構想を立て、引き算で考える。5年先、10年先を予測して今行うことを決める。孫正義スティーブ・ジョブズと発売前に交渉してiPhoneソフトバンクが日本で独占販売。ソフトバンクは2006年ボーダフォン日本法人を2兆円で買収。この時のソフトバンクの売上高は1兆1千億円で借金で買った。携帯電話事業に参入して2008年からのスマートフォン革命に間に合わせた。
 一方、松下幸之助水道哲学(産業人の使命は貧乏の克服。水道の水のごとく物資を大量生産して無代に等しい価格で提供する)。まず志を立てる。新兵器を持つ。未来を予測して松下幸之助は電気製品事業を始めた。そして、人材育成。「松下電器はモノを作る前に人を作る会社です」
長期目標を明示する。まず自分が知った上で人に任せる。勝ちグセを付ける。何かで一位となり士気を上げる。
 著者は二人について、「2人とも天才ゆえに、その戦略・戦術には法則性があり、恐ろしいほどよく似ています。ただ、私が松下塾長に教えを受けたのは86歳からお亡くなりになる94歳までの人生の総仕上げのとき。孫社長を支えたのは48歳から57歳までのまさに働き盛り。だから、人間としての孫社長はこれからまだ発展していかれるのだと思います」また、松下幸之助にしても、孫正義にしても最初から強固な志を持っていたわけではありません。初めは、ぼんやりとして持っていた志が、自らの成長とともに、揺るぎない志として徐々に固まっていったようです。最大限の努力をしたら、最後の最後に勝負を決するのは「運」です。その運を上げるには、普段から運のいい人と付き合い、「自分は運がいい」と信じることが大切のようです。