『一流に学ぶ、メンタルトレーニング』講師は立花龍司さん。

 今日の講師は、日米のプロ野球でコンディショニングコーチをされて、現在筑波大学院にてスポーツ医学の研究の傍ら中高生からプロスポーツ選手までのコンディショニングコーチをされている立花龍司さん。日本人初のメジャーリーグコーチで有名な立花龍司さん、日本のプロ野球でも数々の有名選手を指導してきたことでも知られています。1時間30分ではあったが、メンタルトレーニングの視点からビジネス社会でも生かせる話であり、大変参考になった。
① ポジティブシンキング(⇔ネガティブシンキング)
 伸びる会社と伸びない会社、勝てる組織と負ける組織がある。その違いはなにかといえばポジティブシンキング(*1)とネガティブシンキング(*2)の違いである。
(*1 積極的、楽観的な考え方をすること。なんでもプラス思考にとらえる”ポジティブ・シンキング”は、いい意味で捉えられる場合が多い。何か悪いことが起きても、悪いことは早く忘れて次に進んだり、それ以上の悪い状況を想像して不幸中の幸いだと考えたり、悪い面を再考するためのサインだと捉えたり。自分のなかの悪い面に気づき、改善したりして自分を高める。
 *2消極的、悲観的な考え方をすること。マイナス思考とは、物事を悲観的な方向に傾斜した考え方を行う傾向。Negative Thinking。)
ポジティブ・シンキングの勧め。
いつもやりたい、なりたいという行動をとる。積極的な行動。人間はネガティブに考えると、そのとおりになる確率が高い。「あ〜なりたくない。」という気持ちがあると、そのようになってしまう。例えば、野球の七不思議に、代わった選手が守っている所へ、何故か打球がよく飛んできて、エラーの確率も増えるというのがあります。これは日本だけでなく外国もそうなんです。代わった選手は、自分の所へ飛んで来たらイヤだなと思っていると、ホントに飛んで来たときに体が固まってしまいエラーをし易くなってしまうのです。「ボールが飛んでこないでくれ。」と願っていると、エラーとする結果が多い。途中から試合に出る選手はいつも試合の流れに順応していくことが大事である。
●ポジティブな思考の重要性
・「1分間、象のことを考えないで下さい」
・「好きな色をイメージしてください。ピンク色は考えるな。」
だいたいの人が象のことを考えてしまうのですが、これが実は指導するにあたり大事な部分なようで、「エラーするな」と言われた選手は、「エラーしやすい」というデータがあるようです。(よく脳科学の本をみると、に「人間の脳は否定形を判断できない」とありますが、つまり、「エラーするな」の「するな」をインプットせず、「エラー」だけをインプットしてしまう。だからよく、否定形ではなく、肯定形に直して考えろと言われています。)。すよね。「エラーしないように、こうやってキャッチしよう」または、「エラーしてもいいから、こうやってみよう」など、必ず肯定形で終わらせる。
近鉄vs阪急の試合で、近鉄のスコアラーが阪急のエースピッチャーAが出た場合、このピッチャーAの高めは速くて打てない、とのデータを得ていた。監督は選手にAの高めには絶対手を出すな、というネガティブな指示を出す。しかし選手は高めが気になり、中途半端なスイングで凡退してしまった。試合途中に、高めには手を出すなと言っただろう、と言うと選手はますます固くなってしまい手が出なくなり、さらに打てなくなり、結果的には、そのチームが優勝決定戦で負けてしまった。この場合にはポジティブな指示に切り替え、「高めの球は早く、打ちにくいので、低めを狙って打て。」と指示を出すことが正解である。ポジティブになると、バットスイングが1.25倍速くなるのです。
 彼も指導する時に、「〜しないように、こうやろう」と言うらしいのです。ほとんどの一流選手は、「1分間、象のことを考えないで下さい」と言われたら、象のことを考えないそうです。つまり、普段から頭がポジティブシンキングになっているので、「立花さんが象のことを考えるなと言ったから、別のことを考えていた」となるようです。これは、「〜しないように、こうやろう」という指導方法である。立花龍司さんは「相手がやる気になるように考えさせる指導が大事」と強調しています。
 ある番組で、立花龍司さんがビートたけしに「1分間、象のことを考えないで下さい」と質問したそうです。すると、ビートたけしは「立花さんが象のことを考えるなと言ったから、最近買おうと思った金魚のことを、ずっと思い出していた」と言ったそうです。
● 指導者の条件・・・ポジティブな思考
 一流と言われる人はまさにポジティブシンキングができるということでしょう。野球はいい監督はポジティブに考えます。よくない監督はネガティブに考えます。○○しちゃダメだと思うと、起きてほしくないダメな事が起きる確率が高くなります。「“ポジティブシンキング” とは、“ああしよう、こうしよう”と明確な意志を持って、その意志に基づいて行動すること」と教えて頂きました。また、「伸びる選手は目標設定が上手い」、「伸びる選手は苦手な練習を先にする傾向にある」など、ご自身の長年のコーチの経験から得た傾向を、実例を上げながらお話しがありました。
ポジティブな思考は自分で行動を決定するものであり、命令するのではなく、自ら気付くまで待つことが重要である。まさに、指導力とは忍耐力である。
・コマンド(命令)⇒ミッション(使命)⇒パッション(情熱)
 親を日米で比較してみると、ある違いがあることに気が付きました。日本の親は、学校へ子供を送り出す際、危ないから飛び出してはいけないよとネガティブな言葉を投げかける。アメリカの親は、子供にあの道を渡る時は右左を見て渡ろうね、と声を掛けます。「○○してはいけない、ではなく○○しよう」とポジティブな指示を出す。「先ほどの低めを狙って打て。」もコマンドであるが、いかに自分の力を出しやすいようにするかが重要。命令では最大の力を出すことができない。「〜するなよ。」というネガティブな指示でなく、ポジティブな指示、言葉の選び方で選手は自分の力を最大に発揮する。従来、日本のスポーツはストレスをかけ、精神力を強くする傾向があったが、それではある一定のところでとどまる。
 実例であるが、子供20人を、10人ずつAとBの二手に分け、ボールを追いかけて捕らせる試みをしてみました。Aには失敗するなと指示を出す。Bには失敗していいから、思い切っていこうと指示を出す。するとBの子供たちの方が俄然やる気を見せました。子供の歩数も二歩もアップしました。技術的に投げ方、打ち方を教えるのは大事ですが、まずは心を動かせていくことなのです。「一生懸命やろう。失敗は気にするな。大丈夫だよ。上手くなるよ。」ポジティブ思考でいける人がいい指導者である。
 子供は常にヒーローにあこがれる。あのようになりたいという気持ちももつものである。野球選手ではイチローに憧れることもあるが、実はイチロー神話がある。バッティングセンターで親子連れを見かけ、父親が「ボールは上から叩けー。力むなよ〜。」と指導している親御さんがいる。イチロー親子は毎日バッティングセンターに行っていたことで有名であるが、そればかりが一人歩きして、嫌がる子供を無理やりバッティングセンターに連れて行く父親が多い。イチローイチローの父親にもそのことを尋ねた。イチローはバッティングセンターに連れて行って欲しいとお願いはしたけど、父親から行こうとは言われなかった。父親はもともと野球をやったことがないので、技術的な指導は全くしなかった。ただ、野球が好きになるような努力はたくさんしたとのことだった。キューバの野球チームは強いが、それは選手をやる気にさせている。社会主義的な統制で持って決して野球をしているわけではない。失敗したらどうしよう。失敗してはいけない。こう思っていると、悪いイメージが頭にこびり付いてしまい、失敗を恐れるあまり身体も緊張でガチガチになってしまいます。ポジティブに、プラス思考でいく方が、自然に力が発揮できます。ポジティブ、のびのびと。これと好き勝手にやることとは違います。メジャーのコーチの仕事の八割は、選手のモチベーションを上げること。育て上げることは不可能、育つのは若者たち自身だ。命令ではなく、忍耐がリーダーの役割。
 人の能力を引き出すのは命令ではだめ。命令ではそこそこの選手は育つが、ポジティブな指示によりプラスαが生まれる。自分で決定するまで、忍耐が必要である。自分で考える力が必要である。命令ばかりであると、指示待ちになってします。指導者である上司は、忍耐強く説明し、ポジティブな考えを持ち、「〜しよう。」という指示を出すことが大事である。
②組織論における「綱引きの原理」
● 依存心のない組織を
 例えば、綱引きを引っ張る力を測定すると1人100kgを引っ張る力を持つ3人がひっぱると、日本の場合には300kgにはならない。チームワークを強化し、日本は組織力を大事にする傾向がある。誰かが失敗したら、誰かが助ける。それはチームワークとして美談であるが、まさに日本人の依存心である。本来、チームワークを発揮するのであれば、1人ではなく、複数になるのであるから、プラスαが生まれてくるはず。
 依存心の強いチームのリーダーになると、明確に役割を明示する。全盛期の西武は、当時森監督であったが、1番は1番の役割を、2番は二番の役割をそれぞれ理解しており、例えばバッターボックスに立って、サインによる指示ではなく、サインの確認であった。まさに、責任範囲をそれぞれが明確にし、それぞれが果たすことにより、チームワークが生まれてくる。
③会議の持ち方
 部下が上司に意見を言える組織が組織の発展に繋がるものであり、部下が変わるのではなく、上司が変わるべきである。例えば会議でも部下の口数が少なく、上司の口数が多い組織はつぶれる。
 例えば、ディズニーランドはそれほどアトラクションを変えなくても、リピーターが被い。9割がバイトであるが、バイトをキャストとして意見を大事にして、キャストの意見をとり入れて業務にあたっている。キャストとして自覚し、責任を持ち、お客さんに接している。川上と川下の法則であるが、エンドユーザーに近い立場にいる川下の部下を大事にすることにより、営業成績も上がってくる。まさに、部下が変わるのではなく、上司が変わるべきである。
 
 依存心のない組織を作るのは難しい課題である。性格的に、みずから意見を言う傾向にある自分としては大いに反省すべきことかもしれない。松下幸之助さんの言葉でないが、仕事に熱意を持つと同時に共感を得なければ自らの望む結果は出ないということを頭に描きながら、管理職として、腐心してきたつもりであるが、自ら考え、行動させるためには、部下の意見を取り入れることは重要であると認識していたが、忍耐をもちながら、職員の成長を待つことの難しさを感じた。まず自ら、ポジティブな思考でいこう。