「体制維新---大阪都」(橋下徹・堺屋太一著、文春新書)から日本を変える政治家をみた。維新の会の「船中八策」は。

 橋下徹さんという名前を出すだけで読む前から本への評価が決まってしまうような印象がありますが、正直、この本は面白いですし、大阪都が十分わかる本です。少なくとも政治家の本をある程度読んできた人なら、この本を読んで、橋下徹のやりたいことへの賛否は置いておいて、彼の「有能さ」がわかるのではないかと思いますし、少なくとも現役の政治家の書いた新書の部類として論理性や具体性があるのを感じると思います。一応、堺屋太一さんとの共著のようなかたちをとっていますが実質橋下徹さんの単著。堺屋太一さんは対談の相手をして、序章でここ20年来繰り返している「明治維新以来の大転換を!」という主張をされているだけです。大阪都構想を掲げる橋下さんが大阪市長として考える大阪と日本の未来がよくわかる本ともいえよう。一点突破で現在の閉塞感を打ち破る可能性がある。4年間の大阪府知事時代の闘争に裏付けられた現場感覚とそこから生み出された明快な論理と方向性には説得性があり、支援したい感情に駆られる。
① 橋下徹さんの「大阪都」構想と自らのマネジメント手法
  今度のダブル選挙の最大の焦点となり、府民も市民も支持した「大阪都」構想ですが、この本では大阪市が「小さすぎ」て、「大きすぎ」るという点が強調されています。この表現 は矛盾していますが、橋下さんが言いたいのはつぎのようなことです。人口約260万の大阪市はグローバルな都市間競争を勝ち抜くための規模としては「小さすぎ」ます。空港や道  路などのインフラ、成長戦略を考えるためには現在の大阪市の規模や範囲だけでは足りず、広域での一体化した行政と政治決定が必要になります。
  一方、大阪市基礎自治体としては「大きすぎ」ます。大阪市は人口で行けば都道府県レベルの規模であり、住民の細かいニーズを汲み取りながら政治を行なっていくには大きすぎ る存在です。大阪にも二十四の区がありますが、東京の特別区とは違って区長が大阪市の役人であり、その役人たちが2年の任期で交替していく状況です。これでは、大阪市の中の地 域の違いに合わせた行政サービスはできないと橋下さんは説きます。
  そこで大阪府大阪市を「大阪都」に再編成し都市計画などを一元的に行うとともに、その下に8つほどの特別自治区をつくり東京の特別区のような公選制の区長をもった基礎的自 治体とするというのが、橋下さんと「大阪維新の会」の「大阪都」構想です。「大阪都」構想が単なる二重行政の無駄の排除だけではなく橋下さんの政治的哲学があります。
 <ポイント>
 ・大阪府庁と大阪市役所を解体し、新たな大阪都庁にする。現在の大阪市を8つの特別自治区に再編。都は大阪全体を対象にした広域行政を担い、特別自治区基礎自治体として住民  サービスを受け持つ。
 ・景気対策や雇用対策、空港、港湾、高速道路、鉄道などのインフラ整備、自治体外交、国との権限折衝、地域全体を考えるのが広域行政。
 ・高速道路、幹線道路、地下河川などの広域インフラ。JR大阪駅北ヤード開発、大阪湾岸ベイエリア部振興、カジノ構想、
 ・OSがウィンドウズ95(140年前にできた行政のしくみ)のままでは、WIN7用の最新ソフトは動かない。ボロボロの車(大阪府大阪市)を電気自動車(大阪都)に変える。良い  運転手(公募制で選んだ首長)を選ぶ。民主党はいきなり運転席に座って(政権交代)事故を起こし、路線バス(官僚主導)になった。
 ・都市間競争の時代。個々の都市を成長させ、つなぐのが国の役割。
 ・大阪府の改革:1100億円の収支改善目標を達成。職員給与は最低水準。450億円かけて私立高校の授業料無償化。警察力の強化で街頭犯罪ワーストの汚名を返上。負債を5577億  円返済。貯金は10億円から800億円になった。伊丹空港廃港問題、水道事業の統合、、、。
 ・首都圏・中京圏・近畿圏が日本全体のGDPの約7割。成長戦略の主体は都市であるべきだ。都市は国を引っ張るエンジン。大阪都は東京に次ぐ、二発目のエンジンに。
 ・府立大・市立大の統合後は公立大では日本ナンバーワン。現在は府・市合わせて200億円かけている。首都大学東京の二倍かかっている。大阪消防庁は1万人の部隊になる。
  中継都市、付加価値都市が大阪の成長戦略。
② 「「独裁」マネジメントの実相」
  つねに独走しているような印象のある橋下さんですが、「政治と行政の役割分担に徹底してこだわりました」(115p)とこの本に書かれています。基本的に大阪府の仕事のほとんど は行政の仕事であり、自分が口出しをしたのは1%程度だというのです。そして、行政マン同志に見解の相違があるときは徹底的に議論させ、以下のような原則に基づいて結論を出すよ うにしたと126pで述べています。
 1、原則は行政的な論理に勝っている方を選択する。
 2、論理的に五分五分ということになれば、僕が政治的に選択する。
 3、行政的な論理に負けていても、これはというものは、政治決定で選択する。 
  大阪府の改革がそれなりに進んだということは、この原則もそれなりに機能していているはずである。また、橋下さんは民主党の「仕分け」のやり方に対して、政治家が複雑な行政 制度に頓珍漢な疑問を呈するよりも行政マン同志に議論をさせ、その議論に対して政治家が一定の原則に基づいて結論を出すべきだったと疑問を呈しているのですが、これは的確な批 判でしょう。行政機構の「使い方」としては民主党よりも上手ですね。
 <ポイント>
 ・今の政治家は組織マネジメントの経験がないから、行政組織を機能させられない。組織の仕事の割り振り、役割分担を決めるのがトップの仕事。組織マネジメントの根幹は意思決定  システムだ。政治家はあるべき方向を示す。行政マンが選択肢を作り、中身をつめる。
 ・人口880万人の大阪府。人口260万人の大阪市大阪都庁は強い広域自治体、特別自治区はやさしい基礎自治体に。区長は公選。誰が決定権者か?
 ・税収増と行政改革で確保した財源を住民サーニスに還元する。これが大阪都構想の都市経営モデルだ。
 ・各地域が独立して州を運営していく道州制が最終ゴール。
 ・大阪で統治機構の変革の実例を見せたい。

 この本を読んでいかに橋下さんが政治家としての「有能」であることが理解される。維新政治塾に3000名を超える塾生応募はあったようだが、それだけ、橋下さんの人気がすごいが、それ以上に有能さへのあこがれもあるのではないか。国政に出るのかどうかはわからないが、日本を変えることができる政治家の一人である。

大阪維新の会 マニフェストの骨格明らかに< 2012年2月14日 2:46 日本テレビニュース>
 大阪市・橋下市長は13日夜、市内で開かれた「大阪維新の会」の会議で、次の衆議院議員選挙に向けたマニフェストの骨格を明らかにした。
 大阪維新の会の代表を務める橋下市長は、13日夜の会議で、次期衆院選に向けたマニフェスト、維新版の「船中八策」の骨格を明らかにした。大阪維新の会の議員によると、「船中八策」の骨格は、統治機構の改革や教育の改革など8つの項目から成り、参議院の廃止や首相公選制の導入など法改正が必要なものも盛り込まれているという。この骨格は今月末までに議会で話し合われ、最終的に国政進出への大阪維新の会版「船中八策」として確定するという。今後、「船中八策」は、3300人以上の応募者がいる「維新政治塾」で議論が交わされる。
 大阪維新の会の政策について、中央政界の反応は以下の通り。
 民主党・輿石幹事長「私は、二院制は必要だと思います。橋下さん自身が言っているようだけれど、憲法改正が必要でしょ。そう簡単にいかないと思う」
 民主党・城島国対委員長「新しい政党だと、そういうこと(首相公選制など)を堂々と掲げるということはあるかもしれない。現実論となると、なかなか難しい」
 自民党山本一太参議院議員「既存の政党でない、魅力的な第3極ができたら、有権者は引きつけられてしまうだろうなと。警戒もしなければいけないと」