なぜ、セブンでバイトをすると3カ月で経営学を語れるのか?―鈴木敏文の「不況に勝つ仕事術」

●なぜ、セブンでバイトをすると3カ月で経営学を語れるのか?―鈴木敏文の「不況に勝つ仕事術」40 (プレジデントブックス)から
【ポイント】
■値引きではなく「キャッシュバック」「下取り」が大ヒットした理由
 「1万円の商品を8000円で買うのと、一度払った1万円から2000円が現金で戻るのとでは心理的な効果がまったく違います。下取りもそうです。タンスの中の着なくなった服は価値はないのに捨てられない。それは本能的なものです。でも下取りであれば価値が生まれる。ならば、お金に換えて買い物をしようと思う。それが人間の心理です」
■「顧客のために」と「顧客の立場で」は違う
 「例えば、ヨーカ堂で売る正月用のお節用品はかつては大きなパック詰めで売るのが恒例でした。家庭では家族団らんで正月を過ごす習慣がまだ残っていました。スーパーも正月は休みで、まとめ買いをしておく必要がありました。それが、今は365日営業になり、家庭での団らんもなくなりつつあります。ところが、売るほうは以前、大パックのほうがお買い得で、"顧客のために"なると考えていました。結果、売上はどんどん落ちていきました。"顧客の立場で"考えれば、手間がかかっても量り売りにするか、小パックのほうがいいとわかる。実際、売り方を変えただけで売り上げは何倍にも増えました。大切なのは視点の180度転換です」
■オリジナル高級アイスクリームをメーカーと組んで開発した際に、「できない」「やったことがない」とメーカーに言われたものの、最終的に完成し大ヒットしたことに関して
「売り手の都合の範囲内で、制約に縛られたままどんなに努力しても、顧客から見て正しくなければ、成果には結びつきません。"一生懸命やる"のと"正しいことをやる"のとはまったく意味が違うことを肝に銘ずべきでしょう」
■ボーリングブームやバブル期の不動産投資ブームに乗らなかったことに関して 「みんなが"いい"と賛成することはたいてい失敗し、みんなから"無理だ"といわれ、反対されることはなぜか成功する。反対が大きいほど実現できたときにはほかにない新しい付加価値を生み出すことができるため、逆に成功も大きくなるのでしょう」
■「見える損失」より「見えない損失」が重要
 「コンビニのオーナーの場合、廃棄ロスに関心のないオーナーさんはいません。廃棄ロスは実際に目に見え、数字にダイレクトに表れるロスだからです。これに対し、目に見えない機会ロスにも意識を向けるオーナーはこれを最小化しようと、売れ筋商品を探し出す努力をします。棚の面積は限られるので、その分、売れない死に筋商品は排除していかなければなりません。こうして売れ筋商品や見込みのある新規商品に絞り込んで品揃えしていけば、機会ロスも、廃棄ロスもともに減少し、売り上げも利益も必ず伸びる。拡大均衡(需要が拡大し供給も増大させる)が可能になります」
■鮮度を求める一方でカット野菜も買うという顧客心理の矛盾について
 「買い手市場になれば、顧客はますますわがままになり、欲求は矛盾したものになる。顧客はその矛盾をどのように解消してくれるかを見ている。その解消の仕方に共感すれば、商品を買い、店に足を運んでくれる。われわれの仕事は顧客心理の矛盾を解消することであり、そこに価値が生まれるのです」
■現代の消費は心理学で考える
 「セブン-イレブンでこだわりおむすびを開発する前にアンケート調査を行い、"200円近い高級おにぎりをコンビニで買いますか?"と質問すれば、ほとんどの人が"そんなものは買わない"と答えたでしょう。現代の消費者は、今ないものについては聞かれても答えられず、現物を目の前に見せられて初めて、"こんなものが欲しかった"といって買っていくのです。  だから、現代の消費は心理学で考えなければならないのです。明日の顧客が求めるものは見えません。でも、それは顧客の心理の中に潜んでいる。この潜在的ニーズを掘り起こす。必要なのは仮説と検証です」
メタ認知を習慣づける
 「一度刷り込まれた成功体験を否定的に問い直し、もう一度挑戦する意欲を呼び覚ますには、どうすればいいのか。必要なのは、"もう一人の自分"を置いて、自分を客観的に見つめ直す視点です。私は社員たちにも、"常に自分自身を客観的に見ろ"といい続けていますが、"客観的に見る"とは"もう一人の自分"から自分を見ることです。口で言うほど簡単ではありませんが、常にそのような視点で自分をとらえるクセをつけないと、人間はなかなか挑戦できない。そのくらい人間は過去の経験に縛られやすいのです」
【感想】
◆タイトルにもある「セブンでバイトをすると経営学が語れるのか」。
 セブン-イレブンでは学生アルバイトでも主体的に取り組む人は始めてしばらくすると、経営感覚が身についてきます。発注分担といって、パートタイマーもアルバイトも担当商品ごとに明日の売れ筋商品について仮説を立て、発注し、結果をPOS(販売時点情報管理)データで検証する。その日々の実践を通して力をつけ、育っていくのです。本書で具体例として出てくるお話の一つが「なぜ、海辺の店で梅おにぎりが売れるのか?」。
 こういう「仮説」を立て、「ストーリー」を考え、そして「メッセージ」として伝えるのが「セブン-イレブンのやり方」だと。
◆それにしても、本書を読むと、鈴木さんがかなり「顧客心理」というか、「心理学的アプローチ」を意識されている。特に「われわれの仕事は顧客心理の矛盾を解消することであり、そこに価値が生まれるのです」という一節には、凄みを感じる。