山田吉彦『日本国境戦争、日本の海をめぐる攻防』から 今の国境をみる。

<ポイント>
・中国の狙いは、尖閣諸島に領土紛争を起こすこと。中国側が様々な騒ぎを起こす一つの目的は、日本の主張している尖閣諸島周辺の領海内で問題を起こすことによって、中国の言い分を国際社会にアピールすることだった。もちろん、そこには第一列島線の確保という大目標がある。
・中国の脅威を間近で感じているのが、石垣島西表島与那国島などからなる八重山諸島の人たちだ。八重山諸島尖閣諸島に近く、昔から周辺国の領海侵犯を体感してきた。感度の鈍い永田町の政治家と違って、八重山諸島の地方政治家たちは危機意識が高い。
・中国は、2010年3月に海島保護法を施行し、「尖閣諸島は中国のものである」との姿勢を鮮明にしていた。中国は常に大きな海洋進出の流れの中で、計画的に事を進めている。それに計画性のない日本が振り回されたというのが、尖閣事件の真相だ。
・韓国は、水面下において日本海呼称問題を優位にするために、さまざまな国際会議の場でロビー活動を行っている。
・沖縄とグアムを結ぶライン上に、日本の防衛施設があれば、日本の自衛隊と米軍が機能的に展開することができる。だからこそ、中国はそのラインを断ち切るべく、積極的に沖ノ鳥島周辺の海域に出てきているわけだ。
東シナ海ガス田問題で、中国は巧妙に日本を挑発している。春暁をはじめとした東シナ海ガス田は、埋蔵量も少なく、採算を取るのは難しいとされる。中国の狙いは、春暁を中心とした東シナ海ガス田ではなく、最終的に尖閣諸島の海底に眠る油田開発にあると考えられる。
・日本製の海図は、海上保安庁の外郭団体である日本水路協会で売っている。本来は、海洋情報、水路情報というのは軍事的な観点から国家機密である。ただし、商船の安全航行のために、各国とも重要機密に該当する情報を省いたある程度の情報を公開している。しかし、日本の場合は、情報秘匿と情報公開の狭間がない。いったん、公開すると決めてしまえば、本当に精密な海図までが一般人の手に入ってしまう。中国はそういった日本の甘さを利用していた。
・外交においては、強硬姿勢か弱腰かという二者択一は本質的なことではない。より重要なことは、相手の出方を読むということだ。相手の出方もタイミングも読まずに、ただ強硬な発言を繰り返すだけでは、かえって国益を損なうことになる。
・日本がこれから東アジア海域における「日本の海」を守っていくにはどうすればよいか。そのカギを握るのは台湾である。日本と最も親しい外国、それは台湾だ。
・台湾と交流を進めているのは、与那国島ばかりではない。石垣市も積極的に台湾との関係を構築している。そんな台湾との親しい関係は、日本全体にとってもこれからますます重要になってくる。
北方四島の返還を目指すとなると当然、現在そこに住んでいるロシア人をどうするかという問題が出てくる。そのためにも、サハリン開発は重要な意味をもつ。私案として、日本企業が出資して、極東ロシアの中心地であるハバロフスクとサハリンに合わせて1万人規模の工場を建設する。ハバロフスクには、極東開発に必要な重機や自動車を生産する工場、サハリンには、液化天然ガスのプラントが効果的だろう。職場の少ない北方領土から、ハバロフスクやサハリンへの移住を促す。そうして人の少なくなったところで、本格的に返還交渉を進めるのである。
在日米軍の抑止力を理解する上で非常に参考になるのが、在フィリピン米軍撤退後に南シナ海で起きた出来事だ。フィリピンから米軍がいなくなった途端、中国はあからさまに南シナ海への侵出を開始した。その象徴的な事例は、南シナ海に浮かぶ島「ミスチーフ環礁」の占領である。軍事力で劣るフィリピンにはなす術もなく、南シナ海の拠点となる島を奪われてしまったのである。米軍の抑止力が重要だということに気づいたフィリピンは、2000年から米軍との軍事協定を結び直す。しかし、時すでに遅し。中国に取られたミスチーフ環礁は二度と戻らず、今では中国の海上基地となっている。
尖閣諸島だけでなく南シナ海や西太平洋にも侵出する中国から島々を守り、「日本の海」を守るためにも、島嶼防衛はきわめて重要だ。
・日本の海を守るためには、海上保安庁自衛隊による有事への対応だけでなく、平時からの総合的な政策を取ることも非常に重要だ。島が潤えば人が増え、結果的に日本の島として存在感が増す。
・地域文化を支援していくことも、島の活性化には欠かせないことだ。お祭りなどの伝統行事や伝統音楽や民族文化があってこそ、地域の中の連帯が維持される。
石垣島以外では、屋久島なども若い人に人気がある。西表島も一時期はそういう傾向があった。これらの島はいずれも、環境保護と開発が両立しているという共通点がある。
また、環境を重視した観光業が充実している。
・実は、国境防衛と環境問題の両立というのは、世界的なトレンドでもある。特に、米国ではいち早くそういう考え方が取り入られてきた。ハワイ周辺の島嶼部には、巨大な海洋保護区が設定されている。もちろん、これは環境保護ということ以上の思惑が込められている。環境保護を名目に、島嶼を管轄下に組み入れ、海洋管理を行うことで海の守りを固めることができるのだ。
・日本も環境保護を前面に押し出しながら、裏ではしっかりと海洋管理につなげていく戦略を持たなければならない。それは、国境政策にも通じることだ。たとえば、沖ノ鳥島サンゴ礁保護を強化する。その上で、環境観光資源としても積極的に活用していく。
・国境問題で戦う政治家や外交官、現場の海上保安官自衛官を支えるのが、国民の声である。
※感想 国境防衛には、さまざまな手法があるようだ。そういったことを戦略的に着実に実施することが大事かもしれない。今日の竹島問題にしても尖閣列島問題にしてもまず、いかに国際社会にアピールして行くのか。アメリカをどう動かすのか。まず、自ら主張しなければならない。