.『天地明察』について

いつの時代も既得権益を侵すのは至難の業だ。江戸の昔、日々の暮らしに直結する暦を正しく作り直すために文字通り命懸けで挑んだ人々がいた。そのリーダーが実在の人物・安井算哲である。行く手を阻んだのは、幕府に利権を奪われるのを恐れた公家たち朝廷の圧力だった。幾度も挫折を繰り返しながら粘り強く使命を果たそうとする天文学者の姿を描く。江戸時代前期。安井算哲（岡田准一）の生まれた安井家は将軍に囲碁を教える名家であるものの、算哲自身は出世欲のない不器用な男だった。星の観測と算術の問いを解くことが好きで、あまりにも熱中しすぎて周囲が見えなくなることもしばしばだった。算哲は形ばかりの勝負となった囲碁に次第に疑問を抱き、真剣勝負の場に身を置きたいとの願いを持つようになる。そんな算哲を、将軍・徳川家綱の後見人である会津藩主・保科正之（松本幸四郎）は暦の誤りを正す任に抜擢する。800年にもおよび使われてきた中国・唐の時代の暦がずれてきたため新しい暦を作るというこの計画には、星や太陽の観測をもとに膨大な計算を必要とし、さらには本来なら朝廷の司る改暦に幕府が口を出すという朝廷の聖域への介入という問題をはらんでいた。算哲は師や友人、算哲を慕いやがて妻となったえん（宮崎あおい）や、彼のよき理解者であった水戸光圀（中井貴一）らに支えられながら、この難関に誠実に取り組んでいく話である。

　この話から感じたのは、日本人のアイデンティティ確立の物語であり、楽しい青春物語かも。暦も通貨も社会のインフラであり、この暦を作るという独自の取組に挑んだ話である。