久恒啓一著「遅咲き偉人伝」について

◎著者は2005年の1月から、全国にある著名人の記念館を訪れる旅をスタート。この6年で400館、400人に迫ろうとしている。回を重ねる度に確信していったのは、「人の偉大さは人に与える影響力の総量で決まる」ことだという。広く影響を与える人は偉大、広く深く影響を与える人はもっと偉大、広く深くそして長く影響を与える人は最も偉大だ−と作者。そして、遅咲きの人のほうが世に出るまでの修業の期間が長いため、自身の力を成熟させているという。影響力の総量が早咲きの人より圧倒的に勝っているというのだ。
 本書は、現在にまで影響を与えている偉人、人生の後半に輝いた遅咲きの偉人の中から、19人をタイプに分け、それぞれの魅力や偉大さを紹介している。多彩型は松本清張森繁久彌与謝野晶子遠藤周作武者小路実篤の5人。一筋型は牧野富太郎大山康晴野上弥生子本居宣長石井桃子平櫛田中の6人。脱皮型は徳富蘇峰寺山修司、川田龍吉の3人。二足型が森鴎外新田次郎宮脇俊三、村野四郎、高村光太郎の5人。
<遅咲き偉人伝―人生後半に輝いた日本人>
http://www.amazon.co.jp/%E9%81%85%E5%92%B2%E3%81%8D%E5%81%89%E4%BA%BA%E4%BC%9D%E2%80%95%E4%BA%BA%E7%94%9F%E5%BE%8C%E5%8D%8A%E3%81%AB%E8%BC%9D%E3%81%84%E3%81%9F%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA-%E4%B9%85%E6%81%92-%E5%95%93%E4%B8%80/dp/4569793193
 以下、「まえがき」から。
「、、その「人物記念館の旅」の巡礼の中で得た結論は、「人の偉さは人に与える影響力の総量で決まる」、ということである。
広く影響を与える人は偉い人だ。そして広く深く影響を与える人は、もっと偉い人だ。更に広く深く、そして長く影響を与える人は最も偉い人である。
遅咲きの人には長く仕事をしている人が多い。世に出るまでの修行の期間が長く、その間にじっくりと自身の力で成熟しているから、遅咲きの人は長持ちしている。したがって影響力の総量において実は早咲きの人に比べると圧倒的に勝っているということになる。
そして、今日に至るまで、彼が生きた時代を超えてその影響が及ぶということになると、その総量はとてつもなく大きくなり、偉人になっていく。」
「「少にして学べば則ち壮にして為すことあり。壮にして学べば則ち老いて衰えず。老いて学べば則ち死して朽ちず。」江戸時代の儒学者佐藤一斎の味わい深い言葉である。生涯学習の時代にふさわしい言葉だ。
この本で取り上げた近代日本の偉人に共通するのは、「死して朽ちず」、つまり素晴らしい業績をあげた人物の醸した香りが後の世の人にも影響を与え続けているということである。
長寿化社会は遅咲きの時代である。徳富蘇峰は「世に千載の世なく、人に百年の寿命なし」と言ったが、私たちは人生100年時代を迎えようしている。これからの時代では、70代、80代、90代という人生後半の人々の中から様々の分野でスターが生まれてくるだろう。そういった時代を生きる上で、この本で取り上げた遅咲きの偉人達の生き方、仕事ぶりは大いに参考になると思う。
「少子高齢社会」には問題山積みという論調が多いが、高齢者こそ長い時間をかけて何事かを為すことができるし、その姿が、少なくなる若者への無言の教育にもなる、そういう時代になっていくだろう。」

取り上げた遅咲きの偉人達は、下記の人々。

多彩型:松本清張森繁久弥与謝野晶子遠藤周作武者小路実篤
一筋型::牧野富太郎大山康晴野上弥生子本居宣長石井桃子平櫛田中
脱皮型:徳富蘇峰寺山修司・川田龍吉
二足型:森鴎外新田次郎宮脇俊三・村野四郎・高村光太郎

松本清張:幅の広さと奥の深さと圧倒的な仕事量で時代に屹立した大小説家
森繁久彌:たゆまぬ研鑽で時代とともに成長を続け大きく花開いた国民俳優
与謝野晶子歌人から始まったそのエネルギーで時代を牽引した近代最高の女性
遠藤周作:多彩なチャンネルをまわしながら人の何倍も人生を楽しんだ大作家
武者小路実篤:「世界にただ一人という人間」を人生最後まで追い求めた理想家
牧野富太郎:植物学という一つのテーマに人生のすべてをかけた世界的学者
大山康晴:絶頂からの陥落後、時間をかけて再起を果たした燻し銀の天才棋士
野上弥生子:「鬼女山房」で世界に類例のない長期の現役活動を継続した小説家
本居宣長:日本の原型に迫る歴史的大著を完成させた努力と信念と継続の人
石井桃子:神聖な児童文学の世界に向き合い崇高なる百年の人生を送った女性
平櫛田中:百歳を越えてもなお師の理想を実現せんと精進し続けた日本彫刻家
徳富蘇峰:55歳から34年をかけて世界最大の著作を完成させた歴史思想家
寺山修司:年齢を重ねるほどより華麗な大輪の花を咲かせた早世の天才表現者
川田龍吉:経営者と男爵イモを発明した農事家、二つの人生を全うしたロマンチスト
森鴎外:昼は陸軍軍医、夜は小説家としての両輪で生き切った明治の大文豪
新田次郎:役人と作家、二つの道を歩みながら優れた小説家に大成した仕事師
宮脇俊三:仕事の合間に趣味を満喫しそれを本業にまで昇華させた鉄道紀行作家
村野四郎:経済的防波堤の中で細く長く詩の世界を歩み続けた実業人詩人
高村光太郎:最晩年に人生最高の傑作彫刻を完成させた愛の詩人彫刻家
 日本の平均寿命は82.3歳(2005)である。世界的に見ても長寿国であることは間違いない。ちなみにロシア人男性は60歳を下回る(2005)。ロシアには年金問題が発生しそうにないかわりに“遅咲き偉人”も見つかりそうにない。
 著者はライフワークとして「人物記念館の旅」を続けているとのことである。本書はそこで出会った偉人について論じた一冊となる。“人の偉大さは人に与える影響力の総量で決まる”と結びつけている。経営者で言えば“京セラ稲森名誉会長”などがあげられるのかも知れない。本書はここで19人の偉人について紹介をしている。その切り口は“遅咲き”である。遅咲き偉人に対する著者の見方を引用して紹介したい。「遅咲きの人には長く仕事をしている人が多い。世に出るまでの修行の時間が長く、その間にじっくりと自身の力で成熟しているから、遅咲きの人は長持ちしている。したがって影響力の総量において、実は早咲きの人に比べると圧倒的に勝っているということになる。そして彼が生きた時代を超えて、今日に至るまでその影響が及ぶということになると、その総量はとてつもなく大きくなり、偉人と呼ばれるようになっていく」
 当然のことながら遅いから良いのではない。修行を積上げ、熟成する期間を保つことが重要なのである。経営者には“強さ”が必要である。胆力とも言える。いつのまにか自分を含め“胆力”のある人が少なってきたように感じる。これは経営者だけではない。政治家にも共通したことではなだろうか。すさまじい戦中戦後を経験した政治家はなにか代えがたいものを感じた。しかしいまそれを感じることはまずない。これは生きることが修行であったと言えるからなのかもしれない。“命がけの修行と成功経験”これが偉人となるキワードのようにも感じる。本書から19人偉人の生き方を学んだ。これからの人生の参考としたい。機会を見て一人ずつ紹介したい。

(4月22日生まれの偉人)
◆前田 久吉(まえだ ひさきち、1893年明治26年)4月22日 - 1986年(昭和61年)5月4日)は日本の実業家、政治家。
 大阪府西成郡今宮村天下茶屋(現在の大阪市西成区)出身。生家は代々農業を営んでいたが、父の代に零落した。1904年(明治37年)、天王寺師範附属小学校を卒業。家庭の事情で進学を断念して、漬物桶製造店や呉服問屋に丁稚に出る。1909年(明治42年)、実家に戻り、呉服の行商を始めた。1913年(大正2年)、徴兵検査を受けるが、子どものころから病弱だったため、丙種となり、兵役に就かなかった。同年、母方の祖父母が経営する新聞販売店の手伝いを始め、1914年(大正3年)その経営を任された。地道な努力により、数年で取り扱い部数を10倍に増やし、南大阪でも指折りの新聞販売店にする。1922年(大正11年)7月9日、『南大阪新聞』を創刊。1927年(昭和2年)、新聞社を株式会社に改組して社長に就任する。1933年(昭和8年)、工業関係の専門紙として『日本工業新聞』を創刊。これにより、関西で既に先行していた朝日新聞・大阪毎日新聞両紙の経営陣からも一目置かれる存在となり、大毎の社外役員に迎えられるなど、前田は一代で大阪の新聞王に登り詰めた。
 「江戸・東京を造った人々」は、「雑誌『東京人』に1988年4月号から1992年12月号までの五年間にわたって連載された47本の人物像を、二つのテーマに分類し、再編集したもの」である。登場するのは江戸を本格的に開いた徳川家康に始まって、幕府の役人たち、玉川上水を造った玉川家、江戸時代に多かった大火災からまちを守ろうとした知恵伊豆こと松平信綱渋沢栄一後藤新平などまで、まあ実に多彩な人たちであり、その中で東京タワーを造った前田久吉も紹介されている。

<本の紹介>
佐藤一斎『重職心得箇条』を読む
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佐藤一斎「言志四録」を読む痛快無比!
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ニッポンの超人図鑑 (新人物文庫)
http://d.hatena.ne.jp/asin/4404037929