もう一度あの故郷を〜岩手陸前高田 被災地最大のまちづくり

『もう一度あの故郷を〜岩手陸前高田 被災地最大のまちづくり』(2015年3月9日放送 22:00 - 22:50 NHK総合NHKスペシャル
東日本大震災の被災地・岩手県陸前高田市では今、被災地最大の復興事業が進んでいる。総事業費は1600億円。12メートルの土を掘り、新たな町を造ろうとしている。2011年.3月、陸前高田市津波で市街地ほぼ全域が壊滅し1800人近くが犠牲になった。復興事業計画では、かさ上げ地に新たな街を造ろうとしている。地元商店街の店主たちは4年間、町造りに挑んでいる。震災前の陸前高田市は、人口2万4000人、古くから街道の商人の街として発展してきた。中心部にあったのは大町商店街で200年以上続いた最も古い商店街。祭の時は総出で絆の強い街だった。あの日、最大17メートルを超える大津が陸前高田市の街を襲った。市街地の全域3000戸を超える家々が流された。震災5日後の大町商店街は、壊滅的な被害を受けて、町内会169人のうち約4割が犠牲になった。50軒ほどの店が並んでいた大町商店街、ほぼ全ての店で家族や親戚が亡くなった。津波を間逃れた人達は、ある人は避難所へ、ある人は街を離れ商店街はバラバラになった。
 ・2011年8月、陸前高田市では新しい街をどう作るか市が中心となって検討が始まった。当時、住民たちの間では津波での恐怖から高台に住みたいという意見が半数以上を占めた。検討されていたのは山を切り開き高台にすべての街を移転する計画、しかし現実的ではなかった。検討結果は高さ12.5メートルの防潮堤の設置、高台での住宅、かさ上げ地を造成、東日本大震災の規模の津波が来ても街を守れる高さまで土を盛る。残りの平地部は緑地や公園など整備。完成するまで8年を要する前代未聞の復興計画。岩手県陸前高田市で2011年11月に住民説明会が行われた。長期計画に住民からは不安と戸惑いの声が聞かれた。菅野秀一郎さんはこの計画に希望を見出していた。町が出来るまでの8年間で資金をためて店を出すと決めた。ただ前向きになれない人も言える。阿部裕美さんは津浪で両親を亡くした。夫と営んでいた小さな居酒屋は跡形もなくなってきた。阿部裕美さんは何も考えられなかったと語った。阿部裕美さんは現在は臨時のラジオ局でお知らせを読む仕事をしている。
・2012年がれき撤去とともに始まった。大町商店街の半数が陸前高田を離れていた。のこりの半数は、仮設住宅などで暮らしていた。こうした中から再起のうごきがはじまっていた。菓子店を営んでいた菅野さんは店の再開にむけ動き出していた。家族は仙台におり、生活費をかせぎながら資金の工面をしなければならない。菅野さんは国のグループ補助金をたよりにしていた。しかし、仲間をみつけ、計画をたて、4分の1の自己資金は準備しなければならない。そのころ、町では、建物の取り壊しが進んでいた。住民たちの思いは複雑だった。災害FMの阿部さんは、両親が無くなった体育館が壊されたとき、とても悲しかったと話した。
・2013年、陸前高田市は更地になった。そこへ、店が仮設店舗で建ち始めた。4月、菅野さんも、自分の菓子店を持つことができた。開店の日、常連さんがたくさん駆けつけてくれた。住民たちへ、新たな町のイメージ図が示された。
・2014年、ついに、本格的な造成工事がスタートした。前代未聞の工事を実現させるためのベルトコンベアが紹介された。だが、町の人々にとって、かつての町が土の下に消えることでもあった。大町商店街の店主たちが商店街があった場所に集まった。まもなく、この場所は土の下に埋もれる。阿部さんも毎日店のあった場所に足を運んでいるという。阿部さんは、震災前の歴史をお年寄りに語ってもらう番組に力を入れていた。どんな商店街にするのか、毎週のように話し合いが行われていた。味噌屋を営んでいた井筒さんは、新たに渡される土地は以前より30%減ると告げられた。一坪あたりの評価額があがってしまったため、減ってしまうという。店が集まらなければ、街の根幹がゆらいでしまう。菓子店の菅野さんは、仮設店舗で営業する蕎麦屋の及川さんの相談を受けていた。及川さんは、国の補助金が使えない。以前貸店舗で営んでいたためだ。ふとん屋を営んでいた菅野さんは、仮設店舗でふとんのレンタル事業を始めていた。だが、年齢を考え、新たな町では出店しないという。菓子店の菅野さんも、店の売上は厳しかった。陸前高田の人口は減り続け、機材が足りずに商品も増やせない。菅野さんにはおりに触れ足を運ぶ場所があった。かつての消防団の詰め所あとだ。あの日、多くの仲間が津波にのまれた。菅野さんは出動がおくれ、津波を逃れた。そのため、諦めるわけにはいかないと思っていた。
・震災から4年を迎えた。資金問題に悩む及川さんを、新しくできる町に協同で店を再建するという案を携え、菅野さんら仲間たちが訪ねた。菅野さんは、造成地区を訪ねた。すでにかつての場所は土の下だ。災害FMの阿部さんは、去年の暮れ、別の町に通う高校生をゲストに迎えた。若い世代にふるさとを手渡したいと考えている。いちから町を作りなおそうという前例のない取り組みが進む陸前高田市。全体の5分の1が終了した。完成は4年後。8年におよぶ。