『知的戦闘力を高める 独学の技法』(山口 周著)

【ポイント】
〇独学を効果的に行う4つのモジュール
(1)戦略
 どのようなテーマについて知的戦闘力を高めようとしているのか、その方向性を考えること
(2)インプット
 戦略の方向性に基づいて、本やその他の情報ソースから情報をインプットすること
(3)抽象化・構造化
 インプットした知識を抽象化したり、他のものと結びつけたりすることで、自分なりのユニークな示唆・洞察・気づきを生み出すこと
(4)ストック
 獲得したた知識と、抽象化・構造化によって得られた示唆や洞察をセットとして保存し、必要に応じて引き出せるように整理しておくこと

〇戦略の設定は「テーマが主、ジャンルが従」で
 これは独学を行うにあたって大変重要なポイントなのですが、不思議なことに世の中でほとんど指摘している人がいないので、よく注意してください。なにが言いたいのかというと、独学をするとなると、では「哲学を学ぶ」とか「歴史を学ぶ」とかといったように、ジャンルの設定から入ってしまいがちなのですが、大事なのはむしろ、自分が追求したい「テーマ」に方向性を持つということです。テーマとは、自分が追求したい「論点」のことです。(中略)一方、ジャンルとは「心理学」や「歴史」や「文学」など、コンテンツの分類科目のことです。(中略)独学の戦略を立てるというと、「どのジャンルを学ぶか」と考えてしまいがちですが、これをやってしまうといつまでたっても「知的戦闘カ」は上がりません。なぜかというと、ジャンルに沿って勉強をするということは、すでに誰かが体系化した知識の枠組みに沿って勉強するということですから、その人ならではの洞察や示唆が生まれにくいのです。

〇まったく違う「読み方」が求められるビジネス書と教養書
 まず、ビジネス書の読み方について指摘すれば、基本は乱発される安易系を避けて、できるだけ名著を押さえ、読書ノートは作らない。狭く深く読むのがビジネス書ということになります。(中略)一方で、リベラルアーツ関連の書籍については、先ほどのビジネス書と真逆になります。定番・名著と言われるものが確定しているという点では同じですが、ジャンルが多岐にわたるため、こういうた定番・名著をすべて読むわけにもいきません。また、その内容は必ずしもビジネスへの示唆に直結していないため、後でどんなかたちでビジネスの役に立つのか、いま現時点ではよくわからないことも多い。そのため、後で立ち返って考えたり、参照したりするための読書ノートの作成が必須になるわけです。

〇抽象化の具体的プロセス
 たとえば蟻塚の例を挙げれば、「働き蟻ばかりの蟻塚よりも、多少サボり蟻が交ざっている蟻塚の方が生存確率が高い」というのが、蟻塚において固有に観察された事象であるとき、これを抽象化すれば、「ある生産システム=Aを想定したとき、このシステムの生存確率の最大値は、稼働率100%のところより低いところにある」という仮説Bが得られます。そしてこの仮説Bの持ち主は、たとえば組織設計の際、あるいはプロジェクトチーム組成の際、あるいは個人的な勉強スケジュールの立案の際、この仮説Bに基づいて稼働率に若干余裕を持たせた組織を、あるいはチームを、あるいはスケジュールを組むでしょう。これが独学によって得た知識を「抽象化・構造化」し、自分の意思決定に反映させる、ということです。
〇本のアンダーラインは「事実」「示唆」「行動」に引く
 さて、アンダーラインを引くのはいいとして、どういう箇所に引けばいいのでしようか?基本的には「直感的に面白いと思った箇所」がその対象なのですが、もう少し噛み砕いて指摘すれば、次の3つがアンダーラインを引くべき箇所になります。
(1)後で参照することになりそうな興味深い「事実」
(2)興味深い事実から得られる「洞察」や「示唆」
(3)洞察や示唆から得られる「行動」の指針
 ここでポイントになるのが、自分がいいと思った情報、共感したり納得できる情報だけでなく、共感できない情報、反感を覚える情報にもアンダーラインを引いておく、ということです。なぜだと思いますか? 共感できない、反感を覚えるということは、その情報が自分の価値観や思考を映し出す反射鏡になるからです。

<今日の江戸学>
天保13年(1842)11月24日、松代藩海防顧問の佐久間象山が「海防八策」という意見書を、藩主で幕府老中海防掛の真田幸貫に提出しました。アヘン戦争で清の敗北をふまえて西洋式軍隊の創設が急務だとした象山。ちなみに幸貫は松平定信の次男。この年の7月に出た異国船打ち払い令は、幸貫によるものでした。