『「司馬遼太郎」で学ぶ日本史』(磯田道史著・NHK出版新書)について

司馬遼太郎は自身の軍隊経験をもとに、昭和前期に成立した軍事国家日本が、なぜ軍事力の暴走によって無謀な戦争で国を壊滅させたのかを明らかにしようとして『国盗り物語から始まる』戦国、幕末、明治の日本を描いた。司馬史観によれば、大革命というものは、最初に思想家(吉田松陰)があらわれ非業の死を遂げ、戦略家(高杉晋作)の時代に入り、そして技術者(村田蔵六)の時代になり完成する。予言者、実行家、そして権力者(山県有朋)が順番にあらわれると同時に革命の腐敗が始まるのだ。
 司馬遼太郎の明治国家観では、政治の薩摩、官僚の長州、自由民権の土佐、人材供給の佐賀、教育の会津、文化と技術の加賀、そういった多様な人材が明治政府に集合し、革命を成功させたということになる。江戸時代の遺産が明治に実ったのが明治維新である。明治の特色は格調の高いリアリズムの浸透であり、それは独創を生むリアリズム(秋山真之)と、不合理な精神主義のリアリズム(乃木希典)で構成されていた。日露戦争で勝利をおさめた1905年から1945年の太平洋戦争の敗戦に至る40年間は鬼胎(鬼っ子)の時代である。その鬼胎の正体は輸入したドイツから輸入した参謀本部に付着していた「統帥権」だった。統帥権天皇が持つ海軍を指揮する権限であるが、陸軍参謀本部と海軍軍令部が運用した。この超法規的な統帥権が昭和になって化け物のように肥大化した。日本国の胎内にべつの国家ー統帥権日本ーができたのである。
 司馬遼太郎が生涯をかけて書き続けた歴史小説の「あとがき」が、『この国のかたち』だそうである。その「あとがきの後」が、『二十一世紀に生きる君たちへ』であり、『洪庵のたいまつ』である。
 『竜馬がゆく」も「坂の上の雲」読んだ私であるが、この本から、改めて司馬遼太郎の文学は時代のダイナミズムや社会の変動を描く「動体の文学」。その出来事が何故起きたのか、現在や将来、似たような局面にでくわした時、役立つかもしれない。磯田さんが最高傑作という「花神」を読んでみなければなるまい。

<今日の江戸学>
◆慶長19年(1614)11月25日、公卿の近衛信尹のぶただ)が亡くなりました。50歳。書が有名で、本阿弥光悦松花堂昭乗と並んで「寛永三筆」の一人。織田信長の加冠により元服左大臣となりましたが関白になれず、文禄の役の際、朝鮮にわたろうとして後陽成天皇の怒りをかい薩摩へ配流となりました。のちに許され関白となりました。