「未来を創るエネルギー戦略: 岐路に立つ日本」(The Economist Intelligence Unit Limited 2012)

 エネルギーに関する二人の論文がある。単に脱原発というのではなく、今、そしてこれからのありようを考えた視点でぎろんされるべきではないか。私は原発推進派ではない。安全性は大事である。今エネルギーは安全でより環境に優しいものであり、安定供給されるものを考えていくべきである。いま、そしてこれからの我々日本人に問われているのではないか。以下の二人の論文は考えさせられるものがある。
●日本は1970年代に石油ショックを経験しており、エネルギー問題の壁に突き当たるのは始めてではない。だが寺島氏によると、エネルギーは戦略的事項であるにも関わらず、日本の対応はこれらの危機を経ても市場を通じた‘解決策’に頼るというその場しのぎなものに留まっている。福島の事故後、日本は今一度エネルギー戦略の岐路に立っている。国内では脱原発感情が高まっているが、日本が原発を維持する切実かつ現実的な理由もあるという。
                                      一般財団法人日本総合研究所 理事長 寺島実郎
 寺島氏は、福島事故後にエネルギー基本計画の見直しに向けて設置された経済産業省総合資源エネルギー調査会の委員を務めている。2012年2月16日、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)は、日本におけるエネルギー政策の歴史的側面と将来的展望について寺島氏から話を聞いた。今日に至っているかというとそうではない。いつもその場しのぎできた面がある。例えば、1973年、日本の中東への石油依存率は78%でした。ところが気づいてみると、今日本の中東への石油依存度は8割前後です。石油危機に直面してエネルギーソースの多様化や分散化を図ったはずなのに、です。理由の1つは、世界の流れがエネルギーの自由化へと向かったからです。つまり、エネルギーは、戦略的な商品というよりも、市場に任せた方が安定的にエネルギーを運営できるという考えが主流になっていったのです。特に1980年代から1990年代にかけて、長期的な先行投資やリスクの分散といったエネルギー安全保障の議論は、1セントでも安い石油を市場で調達して来るという考え方へ一気にシフトしました。易きに流れたのです。要するに、タンカーを巨大に太らせてホルムズ海峡を越え、数珠繋ぎにして日本に運んでくるのが(日本にとって)1番良いということになった。それがいわゆる、今日のホルムズ海峡・マラッカ海峡問題に繋がります。200日分を越す備蓄や、LNG液化天然ガス)の比重を高め石油の比重を落としてきたこと、LNGについては中東依存の割合が低下するなど新しい動きもあります。しかし、エネルギーの安全保障という点で非常に虚弱だというのが日本のエネルギーの置かれている状況の基本認識です。
EIU:福島での原発事故は、日本のエネルギー方針にどのような変化をもたらしましたか?
JT: 2010年6月に民主党政権になって(2030年に向けた)エネルギー基本計画というものがまとめられました。その中身はというと、電力供給の約50%を原子力でやろうというシナリオだった。CO2の排出を中期目標で25%削減してみせるという宣言をしたからです。つまり、原子力はCO2を出さないという一点において、“環境のための原子力”という選択に踏み込みました。ところが皮肉にも福島の事故が起こり、電源供給の5割という話はリアリティを失ってしまったというのが現実です。そこで、菅(前)首相は原子力に限りなく依存しない社会を作ろうという宣言をしました。これが今の日本のメディア状況、あるいは国民の世論といっても良いくらいです。反原発脱原発という辺りで話していれば拍手が起こるというか。つまり、“原子力から再生可能エネルギー”へというのが、日本のエネルギー政策のメガトレンドという固定観念が生まれています。
EIU: 寺島氏自身が考える2030年に向けたエネルギーの新ベストミックスとは?
JT原子力で約2割、再生可能エネルギーで約3割、化石燃料で約4割やるべきだと考えています2。色々な議論が行われていますが、日本のベストミックスは結局このあたりに収斂すると思います。化石燃料に関しては、当面は比重を増やさざるを得ないですが、これもガス化という流れを重視すべきだと思います。シェールガスの時代が来ているわけだし、非在来型の天然ガスというものが大いに期待できます。日本国産の非在来型天然ガスであるメタンハイドレートも含めて、ここのところで物語を作れると思っています。本当は、原子力に限りなく依存しなくても賄う社会を作れると思っています。それでも原子力を2割ぐらい維持すべきだと私は考えます。私は原子力推進派というわけではありません。1970年代から再生可能エネルギーを主張していた立場ですし、(今回を契機に)再生エネルギーに目一杯舵を切りたいとも考えています。
EIU:原子力を維持する戦略的論拠とは3?
JT原子力が他の電力供給源に比べてコストが安いからとか、CO2を出さないから環境に優しいという、今までの原子力推進派の人達がいってきた論点で原子力をやるのであればやめた方が良いと思います。そういうロジックで原発を維持すれば、今回の事故を受けて反論されて終わってしまうわけです。そして、そういった反論は正しいと思います。日本が原子力発電をやめても、他国もそうしようと思っているわけではありません。例えば隣の中国は現在14基ある原発を2030年までに80基にしようとしています。スリーマイルの事故から1基も作ってこなかったアメリカも、ついに2基新増設するということを決めまし
た。韓国も25基まで持っていこうとしていますし、台湾も今6基動かしています。日本を取り囲む東アジアだけでも100基以上が林立しているような状況を想定せざるを得ません。そういう中、もし日本が専門性の高い人材基盤や技術基盤を維持しなければ、例えば原子力の安全について語るにも、国際社会における発言力はないわけです。研究だけを続ければ良いじゃないかという意見もありますが、これは技術というものの本質をわかっていない。使わないかもしれない技術に、世界を相手にできるだけの国家予算や優秀な人材を確保し続けられるとは考えにくい。また、今の日本の国際社会における立場というのは、ユ
ニークでものすごく大切なのです。日本は、IAEA国際原子力機関)を窓口に被爆国として世界の非核化を主張しなければならない立場にある。そして日本は、原子力の平和利用を貫いてきたことで、国際社会から核燃料サイクルを唯一認められている非核国です。日本は核の誘惑を断って原子力の平和利用だけに徹して生きようとする国のシンボルであり、模範でなくてはならないと思います。そうすることで、日本のようになりたい(原子力の平和利用のみに徹したい)諸外国の力になることもできる。脱原発は、理論的には選択不可能ではないけれども、これを長期的に貫き通すにはものすごい外交力と指導者の能力が必要になります。欧州は努力して、相互理解と相互依存の仕組みをエネルギーインフラにおける協力体制の確立といった形で作ってきた。例えば、国境を越えてフランスとドイツの間に密度の高い送配電網がある。なぜドイツが再生可能エネルギーに賭けられるかというと、足りなくなったらフランスから送配電してもらえるという構図になっているからです。ところが日本の場合、韓国や中国、ロシアといった国々とそういう体制を築いていません。少なくとも今は、日本は電力供給を自己完結しなくてはならない状況にあるわけです。アジアの送配電網を作るにしても、10年はかかる。理念的に正しいということで、原発はやめた方が良い、再生可能エネルギーは国産エネルギーだ、自然に優しいから、といっていれば正当化できると思われがちですが、そういう状況下で(脱原発・再生エネルギーという選択を維持する)外交力と指導力が本当に担保できるのか疑問です。この国にとって現実的で将来の人々に対しても責任ある選択とは、多様なエネルギーの選択肢を残すことだと思います。そして、再生可能エネルギーを選択したとしても、新しいシステムが直ちに稼働するわけではない。この10年から20年は、化石燃料でしのがなくてはいけないことは間違ないわけです。つまり、この10年20年をどうするのかを考えることが大切です。今年の春までには原発がほとんど稼働しなくなるという状況の中で、今日本は短期的に、ものすごい勢いでLNGシフト(あるいは化石燃料シフト)をしてしのごうとしているわけです。(需要の増加により)ますますエネルギー価格は高騰します。これは世界の目、特に発展途上国の立場からいうと、勘弁して欲しいシナリオです。日本のような国は、ベストミックスでバランスのとれた多様なエネルギー戦略を展開してもらいたいというのが、世界でエネルギーに関わっている人の共通認識だと思います。
●飯田氏によると、日本のエネルギー供給において、再生可能エネルギー電源、特に風力発電太陽光発電が果たし得る役割は極めて大きい。普及拡大の障害として指摘されることが多い供給の安定性やコストの問題は、技術革新により乗り越えることができる課題だという。また、固定価格買取制度の導入は前進ではあるが、さらなる再生エネルギーの普及拡大には、発送電分離の実現と知識改革が欠かせないという。
                                         環境エネルギー政策研究所 所長 飯田哲也
 再生可能エネルギーに関する「安定性」や「電力の質」の問題は、風力発電太陽光発電といった電源ソースの送電系統への接続における障害要因として電力会社がしばしば指摘してきた事項だ。これらの「口実」は、一般市民を惑わすような議論誘導に使われてきたところがある。そもそも「電力の質」の確保とは、停電のリスクを抑えながら、周波数変動や電圧変動を一定の幅に管理することを意味する。その点に関して、風力発電太陽光発電などの自然変動型電源は、けっして致命的な問題を抱えているわけではない。例えば欧州では、現状のスペインに見られるように、自然変動型の電源を送電系統におよそ20%程度までは受け入れることが可能な体制・経験がある。こうした自然変動型の電源は、電源ソースの数を増やすことで変動を平準化することが可能だ。また、電源ソースが不安定と言っても、これはたんに「予測不能な不安定」というわけではなく、天候や気象条件からある程度は予測可能な変動だ。他方、需要も時々刻々予測可能なかたちで変動するため、この「2つの変動」の間(ギャップ)を天然ガス水力発電といったピーク時の電源を支える電源ソースで埋めることで、全体としての電力需給を整えることができる。それでもなお、自然変動型電源が送電系統の20%を越えると、別の解法が必要となるだろう。これに対しては、より長期的な対応となるが、①より広範囲の送電系統につなぐ、②需要も追随させる、③蓄電する、④余剰電力を捨てる・水素等に転換する、といったさまざまな方策があり、再生可能エネルギーの普及とともに進む技術開発により徐々に適用されて行くことが見込まれている。
 再生可能エネルギーが高コストであることも、普及拡大に向けた障害としてしばしば指摘されている。だが、小規模分散型技術である風力発電太陽光発電などの再生可能エネルギーは、基本的に技術学習効果による低廉化が進んでいる。とりわけ太陽光発電の低廉化近年加速しており、過去12ヶ月でおよそ半減し、モジュール価格で「100円/ワット」に到達している5。実際に、ドイツにおける太陽光発電の買取価格は1キロワット時あたり20円(メガソーラーの場合)にまで下がっている6。しかも今後も毎年10%ずつ買取価格は下がってゆく見通しだ。日本でも市場拡大とともに、価格が急速に低下することは間違いない。また、再生可能エネルギーの導入には、化石燃料の使用を回避できるというメリットもある。電力システムに再生可能エネルギーを導入した分だけ、今後も高騰し変動する化石燃料費用を回避することができる。化石燃料費用の回避メリットは、再生可能エネルギー導入のための上乗せ負担を上回るとの試 ・なぜ電力市場改革が必要か
 日本においては、上記のようなポジティブな進展は見られるものの、再生可能エネルギー普及に向けた十分な取り組みが確保されているとはいえない。日本が再生可能エネルギー普及で大きく立ち後れたのは、政治と政策の失敗に帰するからだ8。その背景にあるのは、きわめて強固な電力独占体制と環境エネルギー政策に関する知識革命の立ち後れにほかならない。再生可能エネルギー拡大に必要な送電関係の政策は「優先接続」、すなわち送電を所有するものが再生可能エネルギーを優先して接続し、優先して給電するという規定である。同時に、発送電分離(あくまで1つの手段ではあるが)も電力市場改革の要の措置となる。なぜなら送電系統は、高速道路と類似な「準公共財」であり、一社が独占的に送電系統を所有しているとしても公平・公正なサービスを提供しなければならない。一方で、発電や電力販売といった事業は競争的な営利ビジネスであり、よりよいサービスを低コストで提供するためには誰もが参入できる開かれた市場であることが大切だからだ。日本の電力市場の現状はというと、先進国の中でもっとも高い電気料金である上に、コスト(原価)の内訳が不透明だ。また、広告宣伝費と称してマスメディアを抱え込んで、電力独占や原子力に関する異論を徹底的に排除してきた事実がある。そうした耳の痛い異
論を排しながら、原発建設に暴走し、安全を軽視した結果が、世界史に残る地球規模の最悪ともいえる3・
 ・原発事故に至った真相ではないか。
 しかしながら、3・11以降は、電力市場における独占の弊害が明るみに出始めている。電力独占及び原子力の問題に関するメディアにおけるタブーが解かれ、電力会社と地方政治の癒着や電気料金の不透明な算定などが報道されている。東京電力の損害賠償と査定のために設置された「東京電力に関する経営・財務調査委員会」においても、直近10 年間で約6000億円もの過大な原価算入が行われ、不適切に電気料金に含まれていた事実が指摘されている。これは、ほんの氷山の一角に過ぎないと考えられる。ゆえに、発送電分離を含む電力市場改革は待ったなしの状況だといえよう。電力垂直統合には、経済政策と
しても公共政策しても何ら正当性はなく、むしろこうした弊害の大きさは容認できない水準となっている。社会イノベーション、知識革命のために多様な主体が参加することによって、技術的・社会的イノベーションが加速することは、今さらインターネットのケースを例示するまでもないであろう。電力市場でも、たとえば北欧やドイツに見られる開かれた市場は、再生可能エネルギーを選択できる電力会社の登場を促進するなど、さまざまな革新(イノベーショ
ン)を生んでおり、特に日本はこれに学ぶべきだろう。この20年の間に、多様な市場を多層に活用して地域資源から収益を最大化し、環境負荷を最小化する新しい市場構造が出現している。十年一日が如き、旧態依然の日本の独占市場の姿との彼我の落差は、懸念すべき事態だ。日本における再生可能エネルギーの普及が立ち後れている1つの原因は、このように再生可能エネルギーを巡る現実がここ数年で加速度的に変化しているにも関わらず、日本の中の知識コミュニティがそこから圧倒的に遅れていることにある。政府の出版する「エネルギー白書」といえども、その現実から取り残されている。日本のエネルギー政策を取り巻く知識コミュニティが暗黙のうちに前提としているディスコースは、もはや廃れている発想や知識である傾向が強い。背景には、電力会社独占の影響もあって、独占を是とし自由化を否とする強固な先入観による支配がある。いうまでもなく、今日本に求められているのは、再生可能エネルギー拡大を可能にするエネルギー政策の改革だ。だがそれ以上に、最も重要な課題とは、日本の環境エネルギー政策を取り巻く知識革命によって、根底から革新的な社会に日本を造り替えていくことではないだろうか。
 ・省エネルギー政策と効果
 日本の省エネルギー政策は、規制と支援(税制優遇・補助等)の両面から進められてきた。民生部門における省エネルギー政策は、規制面では、家電等のエネルギー使用機器に対するトップランナー規制、家電の省エネ性能の表示義務付け、住宅・建築物建設時の省エネ基準の届出等によって行われてきた。また、支援措置としては、省エネ設備の導入に対する補助金や税制優遇、省エネビル建設に対する特別償却などの税制優遇、住宅リフォーム減税、エコポイント制度、各種省エネ技術開発支援、省エネ意識向上に向けた情報提供や国民運動などが行われてきた。民生部門における省エネルギー政策として、日本独
自の政策として特に注目すべき成果を挙げてきたのは、トップランナー規制である。トップランナー規制とは、エアコンやテレビ、乗用車など現在商品化されている主要なエネルギー利用機器について、これらの製造業者に対して、一定期間後に、最もエネルギー効さらなる省エネは可能なのか?

●お二人の資料を拝見すると、お二人ともすごい。これらを日本政府や自治体はどう考えているのだろうか。こういう記事こそ、日本のマスコミは取り上げるべきではないか。