鈴木敏文の実践!行動経済学 (朝日おとなの学びなおし 経済学)

鈴木敏文の実践!行動経済学 (朝日おとなの学びなおし 経営学) から
【ポイント】
■1.売り手側から買い手側へ視点を変えてデータを読む
 例えば、量はわずかでも早朝にサラダの売り上げが増えたとき、ピーク時の量ばかりに目を奪われていると、その変化を見逃してしまいます。一方、顧客の視点に立つと、そこにどんな顧客の心理が表れているかを考えるようになります。その結果、朝、ダイエット中のOLが朝食代わりに購入するとか、昼の混雑時を避けるため、出勤途中で買い、会社の冷蔵庫に入れておくといった新しい潜在的ニーズを発掘し、朝もサラダの発注を多く仕かけることで、量につなげることができます。
■2.顧客に納得してもらえる「フェアプライス」が重要
 例えば、1本200円の大根と半分にカットした120円の大根を並べると、以前は1本の方がよく売れました。最近は割高な半分の方を買っていく顧客が増えています。
 前は1本丸々買っても全部使い切れないことがあった。それが半分なら全部使い切れます。1本200円の方がグラム単価は安く、価格面の経済学的な効用は大きくても、半分で120円の方に価値を感じ、フェアプライスであると考えるようになってきたのです。
■3.「気持ちの世界」にいる顧客に「理屈の世界」で接してはいけない
 セールを疑問視した人々は、「現金下取りは割引きと同じ」→「今は割引きしてもなかなか売れない」→「下取りだけでは反応しない」と理屈で考えました。
 一方、わたしはこう考えました。タンスの中が服でいっぱいなら、タンスの中を空ける仕かけを考えればいい。もう着ない服が価値を持ち、タンスの中が空くなら顧客はお店にやってくるはずだ。その心理や感情、皮膚感覚、つまり、気持ちを汲んだのです。
■4.潜在的ニーズは顧客心理に埋め込まれている
 難しいのは、今は顧客自身に「こんな商品がほしい」という明確な欲求のない時代だということです。目の前にないものについては聞かれても答えられず、現物を見せられて初めて、「こんな商品がほしかった」と気づくのです。
 例えば、セブン-イレブンには「こだわりおむすび」というヒット商品があります。ワンランク上の素材を使い、値段は100円台後半と従来のコンビニエンスストアのおにぎりとは異なる商品でした。
 もし、事前に消費者調査やアンケート調査を行い、「200円近い高級おにぎりをコンビニで買うか」と質問していたら、おおかた、「ノー」と答えたでしょう。
■5.リスクを取らないと消費の「爆発点」には到達できない
 例えば、スーパーマーケットで、魚フライを広いフェイスをとって売ったところ、単品で500枚売れたとします。それほど人気のある魚フライなら、フェイスを多少小さくとっても売れるかというと、100枚も売れなかったりします。
商品の売れ行きにも爆発点があって、単品あたりの陳列量が一定以上になると顧客の認知度が高まり、買いたいという心理が働いて、爆発点に達します。一歩踏み込んで挑戦すれば、当然、リスクをともないます。しかし、爆発点はリスクの向こうにあります。挑戦する意欲が顧客の心理に影響を及ぼし、連鎖反応を起こして爆発点をもたらす。需要は顧客の心理とともに動き、爆発点があるという原理をしっかりと認識しておくべきでしょう。
■6.最初から完璧なものをつくる必要はない
 例えば、セブン銀行のATMの低コスト化はなぜ可能だったのか。既存の金融機関では、1台で高級外車が買えるほどの高額な装置になっていたのは「よいATMをつくるにはこれだけのコストがかかる」という発想であったためです。
 その4分の1近くの価格に抑えることができたのは、顧客が求めるものを見きわめ、最低限必要な機能は何と何かを考え抜き、突きつめたからです。 新しいことを始めるときに重要なのは、何が必要なのかの見きわめです。その際、忘れてならないのは、必ずしも最初から完壁で絶対的なものをつくる必要はないということです。
■7.「まあまあ」の妥協から停滞は始まる
セブン-イレブンでは店舗で提供するデイリー商品を毎日、昼に役員たちで試食しますが、すでに店頭に並んでいて、そこそこに売れている商品でも、食べてみておいしくないと感じたら、顧客に提供すべきでないと、北は北海道から南は九州まで全国すべての店頭から20分以内に撤去させます。
 もし、顧客がそれを食べ、「セブン-イレブンの商品はこの程度か」と感じたら、それはやがてすべてに波及します。一度、「まあまあ」「なあなあ」に流れたときから、すべての停滞が始まります。だから、一度方針を決めたら、けっして妥協せず、徹底させることが重要なのです。
【感想】
◆「やはり事例の中心がセブン-イレブンなだけあって、消費者の購買行動に焦点が当たるのは当然だ。
◆「松竹梅理論」。
 いわゆる「3つ商品があったら、真ん中の価格の物を選ぶ」というヤツですね(本書では「松竹梅理論」とは言われてませんが)。実際、ヨーカ堂で羽毛布団を売った際、最初18,00円と38,000円の商品をだしたところ、38,000円の方はあまり人気がなかったのですが、1ランク上の58,000円の商品も並べて置いた途端、38,000円の商品が一番売れるようになったのだそう。まさに絵に描いたような「松竹梅理論」
◆鈴木さん、色々なことをおやりになるたびに、周りから反対されています。セブン銀行しかり、プライベートブランドの「セブンプレミアム」しかり、上記の「現金下取りセール」しかり……。参入を望んだボーリング場には一人で断固反対を貫いたという。