小説『原発ホワイトアウト』とは。そして二つの講演。

◆小説『原発ホワイトアウト』(講談社)が話題である。現役キャリア官僚が書いたとされる『原発ホワイトアウト』(著・若杉冽=講談社)が話題を呼んでいる。サブタイトルは「原発はまた必ず爆発する」。原発という甘い蜜に群がる経産省、電力業界、政界の内情が赤裸だ。さすが「権力の現場」に詳しいキャリア官僚が書いたと思わせる場面が随所に登場する。いま永田町や霞が関では“犯人捜し”が行われているそうだ。
 あらすじをみると、電力業界全体が外部(関連会社)に発注する金額の合計は5兆円にものぼる。関連会社は電力会社の指示にしたがって政治家のパーティー券をさばくだけで相場より15%も高い価格で事業を受注し続けることができる。割高の事業コストを支えるのは「総括原価方式」だ。政治家を資金面で支えてきた電力業界だが、フクシマの事故をうけ全ての原発は停止したままだ。このままだと電力会社の赤字は膨らみ政治家の活動資金も細る。政と官はあの手この手で原発を再稼働できるような体制に漕ぎ着けた。ところが再稼働に待ったをかける人物がいた。新崎県知事の伊豆田清彦だ。新崎県は関東電力の新崎原発を抱える。何としてでも新崎原発を再稼働させたい保守党商工族のドンとエネ庁次官は、伊豆田の失脚を画策する。総理と検事総長の宴席を設け、総理に「エネルギーの安定供給は国の根本ですから」と言わせるのだった。権限を引き継いだ副知事は新崎原発の再稼働を認める。だが大雪の日、テロリストが高圧送電線を吊った鉄塔をダイナマイトで破壊する。新崎原発は電源を喪失した。外部電源車が置かれている高台には大雪のため近づけない。新規制基準では「外部電源車を各原発に配置すること」とした以上、ヘリで電源車を運ぶ方策を別途講じているはずもなかった。海から運ぼうにも大シケで岸壁に近づけない。原発は あれよあれよ という間にメルトダウンした。格納容器の圧力は高まる。格納容器の爆発を避けるにはベントする他ない。ベントが始まり住民は逃げ惑う。 発電所内は そこそこ の警備体制が敷かれているが、送電鉄塔がある場所は無防備だ。新規制基準はテロリストの襲撃を想定していない。全電源を喪失した場合、復水器で冷やせるのはわずか数時間である。メルトダウンは簡単に起こりうる。住民の被曝は避けられないのだ。この小説ではないが、「(新)規制基準は安全基準ではない」。新潟県泉田裕彦知事は繰り返し言う。だが政府も東電も泉田知事の警告に耳を貸そうとしない。原発はどうなるのか。
<参考>http://saigaijyouhou.com/blog-entry-952.html
原発事故を題材とした本は読み飽きて、買ってもつんどくだけのものもあるのだが、これは面白かった。なにしろ題材が「今」なのである。小説の形をとっているが、そのスタートが7月の参院選だから2ヶ月もたっていない。著者は霞ヶ関に勤める現役の役人のようだし、河野太郎もここに書かれていることはほぼ真実と言っているのでここにあるとおりのことが起きているといっていいのだろう。電力マネーを巧妙な方法で配り、再稼動に結びつけようとする行為がきちっと書いてある。そして「今」を通り越して物語は新年へ。そうなると何がおきるかは想像がつくわけだが、いかにもありえそうで面白い。そういうことが起きる前提として現在すでに決まっている原発安全基準のどこが悪いかが書いてある。立地一箇所あたりの原子炉数(集中立地規制)が規制されなかったこと、コアキャッチャーや格納容器の二重化も規定されなかった。作業員の身元確認義務化もなかった。そして、福島のときにも倒れて事故の引き金になった送電鉄塔は規制庁の担当範囲外で手付かずだ。避難計画の義務化もなし。今の状態で動かすとこういうことがおきますよというシミュレーション小説なのである。

◆二つの講演
① 歴史に学ぶリーダーの条件 by童門冬二
 午後、童門冬二 さんの講演会に参加。童門冬二 先生といえば、様々な人にフォーカスをあてている歴史書家だ。まもなく86歳になられる高齢だが、頭の回転は、凄まじくスムーズ。1時間の講演を、まったくネタを見る事なく話し、落語調の話し振りも面白い。51歳で都庁を退任された後に、作家活動を開始したそうですが、30年間で600冊超の書籍を出版するのは、凄い。単純計算で、年50冊。今回は、その莫大な情報量から抽出されたほんのちょっとの「エキス」を勉強させていただいた。
 ■経営者に必要なのもの
 「先見力」「情報力」「判断力」「決断力」「実行力」で、それを行う為の「体力」。
 ■会社に必要なのもの
 『何々「なら」どこどこ』という「らしさ」=風度。
②2013年なるの総括 by 寺島実郎
●・この夏にかけてアベノミクスの本質が明らかに見えてきました。アベノミクスとは何かということについて今さら言うまでもありませんが、異次元の金融緩和というもので、市中にお金を溢れさせて景気を浮揚させようということです。財政出動することで(昨年までは「財政の規律」)、消費税を3%上げないと持ち堪えられないと言っていたのが7月末の段階ですが、ついに国の借金が千兆円を超すという状況下にもかかわらず、この問題を封じ込めても財政出動で景気を浮揚させようとしています。3本目の矢の成長戦略に繋いで秋から日本経済が浮上するかのような幻覚の中でアベノミクスが語られ、事態が進行していると言っていいと思います。
 しかし、この番組でも何回か指摘してきたように、アベノミクスは株高幻想で、金融をジャブジャブにすることによって意図的に調整インフレにして株価を上げようとします。特に、株価が上がっているとはいえ、実体は外国人の投資家が日本株を買い支えてくれているという話を何回も触れたことがあります。日本人の投資家は、機関・個人の投資家ともに外国人が買ってくれているのをいいことに、並走して売り抜いていると言ってきました。それから1ヶ月が経ち、2ヶ月が経ち、直近の数字をみると、昨年11月16日の解散総選挙以降の外国人投資家の日本株に関する買い越しは、11兆2千億という段階まできていました。しかし、直近の7月22日からの2週間の数字までをみると、713億円程度ですが2週連続して売り越しに転じ始めています。分り易くいうと、日本株を買ってくれていた外国人が、少しずつ売りに転じ始めたということです。昨年11月16日から日本人の投資家は、個人投資家が累積4兆4千億円売り抜いてきていて、法人の機関投資家は6兆円売り抜いてきています。つまり、一時、日本株日経平均1万5千円になり株が上がっていた状況の背景には、外国人投資家が11兆円買い込んできている一方、日本人の投資家は10兆円以上売り込んでいるという構図の中で株が上がってきていたわけです。しかし、頼みの外国人投資家が徐々に売り始めたのです。
6月末のヘッジファンドの決算期に、外国人投資家といってもその主体はヘッジファンドですから彼らは株だけをやっているわけではなくて為替、債権等も取り引きしていてマネーゲーマーとして一番的確なところにお金をおいて利鞘をつくって儲けようとする立場で、常に売り抜く資本主義の人たちだから有利な状況を常に世界中を見渡し、お金を動かしているわけで、もしも、日本よりも有利なところが存在したならば、そこにさっとお金が動いていくという危うい力学に依存して日本株が上がっているのです。
 しかも、アベノミクスは株が1万3千円台まで落ちてきていますが、もしも、これが1万円を割るところまで落ちたならば、株価の問題だけではないといくら言っても、「アベノミクスは失敗した」という評価を一気に内外から受けて、この話自体が崩れ去る可能性があるわけです。であるが故に、何としてでも株価を維持しなければならないというところに、少なくとも参議院選挙を超えるまではと、ある種の緊張感があったわけですが、ここへきて、いよいよ外国人投資家も売り始めたのです。
 ただし、世界には日本よりもより魅力的な市場があるだろうかということを冷静に考えると、新興国と呼ばれるBRICs=ブラジル、ロシア、インド、中国がそれぞれ事情を抱えていて、例えば、アメリカのお金が、そのようなところに向かうという状況ではないということが一方にはあるために、正直に申し上げて日本株が一気に崩れるとは思いませんが、一体何をするのか、或いは、実体経済は本当に良くなってきているのかということに対する冷静な分析をすれば、たしかに株は上がっているし、為替は反転しているから円安の恩恵を受けて潤っている企業、つまり、自動車産業等を含めて出てきていますが、必ずしも日本企業全体の実体が良くなっているわけではありません。特に、日本の一般市民の立場から見れば、物価が上がり始めても、所得はあまり増えないという状況が見えてきているために、次第に、アベノミクスは株だけが先行して高くなっているだけで、実体経済はちっとも良くなっていないという気持ちが、見え隠れし始めている状況なのだと思います。
日本だけが取り残されている部分がその出口戦略で、初夏の段階で行われたG8や、そのレベルでの会合において、既に、世界は出口戦略の話題に重点が置かれ始めていたのです。とりわけアメリカはここへきてFRBバーナンキ議長等が盛んにそのような話をしていますが、超金融緩和に出て景気を刺激してきたけれども、アメリカ経済の実体は良くなってきているわけです。例えば、シェールガス革命等を背景にしてシェールオイル、つまり、原油の生産が物凄い勢いで、驚くことに昨年のアメリカの原油生産はBPやIEAの統計で、ほぼ900万バーレルに迫ってきているのです。900万バーレルというのは、ほぼサウジアラビアと肩を並べていて、世界第2位の原油生産国になりつつあるアメリカということになります。2017年に向けて、アメリカが世界一の原油生産国になることは間違いないというレポートまで出てきています。
 要するに、アメリカにとってみれば、思いがけなく噴き出てきたシェールガスという要素と、その随伴ともいえるシェールオイルという原油の増産ということもあって、いわば、景気追い風にあって失業率も下がってきているのです。したがって、経済が良くなってくれば、当然、ジャブジャブにしている金融をある段階で引き締めようとするのは経済学のイロハですが、アメリカが引き締めようとすると、新興国の株も落ちるし、アメリカも日本も株が落ちるのです。つまり、実体経済が良くなっているのに金融経済のほうは、ジャブジャブにしていて欲しいという期待感で引き締めようとすると株価が落ちるという変なジレンマの中にあります。
 そのような中、健全な経済学からいえば、あるタイミングで引き締めなければならない時期が迫ってきていて、アメリカの失業率が6月の段階では7.6%だったのが7月の数字が発表されて7.4%に下がってきたのです。そこで、バーナンキ議長は、この数字が7.0を割るようならば、「FRBは引き締めに転ずる」と言い始めて、あるターゲットを明確にし始めたのです。
 したがって、遅かれ早かれ、アメリカは出口戦略の方向に向かって舵を切ってくるだろうということだけは腹に据えておかなければなりません。しかし、日本はそのような議論は一切なく、ひたすら金融を緩めてジャブジャブにしていて、引き締めや出口戦略という議論は全く出ていないのです。
 更に、もう一つ、私が世界とのギャップを感じるのは、金融規制の問題です。いま、世界経済がおそらく歴史の中でも異常なほど実体経済から乖離したマネーゲームの肥大化という状況に直面しているということです。
 このような議論は、既に今世紀に入って何回も行なってきたことで、例えば、アメリカのウォール・ストリートが強欲で金儲けだけを目指しているということは、オバマ政権が立ち向かってきたテーマでもあったのです。要するに、リーマン・ショックの構造そのものが強欲なマネーゲーマーたちが引き起こしたことだったということはサブプライムローンの構造等、この番組でも話をしてきて、いかにマネーゲーマーが実体経済を歪めているのかということについて、ある種の怒りにも近いような問題意識が必要だということを繰り返し申し上げてきています。
●・湾岸産油国の繫栄(カタール一人当たりGDP20万ドル)。原油高110ドル。途上国が困っている。中国も元安できつい。インド、アメリカ、欧州も。 石炭シフトへ。アメリカは石油・ガスの世界ランキングが急上昇。2010年代にエネルギー自給体制へ。
 ・ロシアファクターが重くなってきた。温暖化による北極海航路の開発(42隻、162万トンの実績)。ゴビ砂漠太陽光発電はロシア経由が有望。サハリ ンから稚内へのルート。国境を越えた送電網。国内の送電幹線網で本州へ。電力改革が必要。
 ・日本のエネルギーコストは昨年24兆円、円安で6兆円増えて30兆円になる。電力料金の上昇へ。再生可能エネルギー買取価格42円は高い(欧州の2倍)。 産業用電力価格はアメリカの3倍、欧州の2倍、独の1.5倍。独は民生用は高く産業用は安くしている。途上国は困っている。新しいベストミックスが課  題。
 ・アベノミクス:現在の1万4千円台の株高は外国人投資家の買い越しで支えられている。11.3兆円の買い越し(大型流動株)。日本法人は6.9兆円の売り 越し、日本の個人は4.34兆円の売り越し。7月から9月13日までで外人11.38兆円(横ばい)、日本法人5.63兆円(やや減少)、日本個人4.83兆円(やや増 加)。日本人は日本の株を買っていない、売り抜いている。BIRICSなど新興国には資金が回帰せずに日本にとどまっている状況。中国(引き締   め)、ロシア(シリア問題)、ブラジル(暴動)。出口戦略として引き締めはあるのか。過剰流動が実体経済の4倍という異常さ。まっとうな経済へ。マ ネーゲームによる株。
 ・アベノミクスは株高幻想。外人が引き揚げたら崩れる。日本マネーの株への投入の誘惑。年金資金115兆円の投入を狙っている。11%ルールの限界を+ 10ポントあげると11兆円になる。もう2%あげている。最近目につくNISA(小額株式投資)はぞの流れ
 ・実体経済:原材料は20%上昇。8月のCPI(消費者物価指数)は0.9%アップ。電力料金の値上げ、消費税アップなど物価はヒタヒタと上がっていく。 一方の所得は0.1%アップと伸びていない。17.9%の組織率の連合の力は弱い。会社の利益は海外からのものであり国内に分配する気持ちは薄い。アベノ ミクスでは産業にインセンティブを与えようとしてりるが、すでに280兆円の内部留保がある。
 ・生活保護を6.5%下げる。これに連動して課税最低限も下がる。0であった4人家族250万円の家計で住民税が20万になる。それに消費増税が加わる。最初 に消費税を導入した大英帝国はぜいたく品に大きくかけて食料品にはかけなかった。
 ・成長戦略を成功させないと、とんでもないことになる。具体的なプロジェクトが重要!

●・日本のベンチャーファンドは韓国企業などがターゲットを定めて戦略的に資金提供。サムスン50億円、、。
 ・日本の浮世絵:中国木版画と西洋銅版画の影響。そして近代西洋への影響。相互に影響し合っている。写楽オランダ人説。司馬江漢の油絵。花鳥風月。ゴンドラの浮世絵も。
 ・アジア。七福神。現世ご利益主義。ごった煮。チャンポン。飛鳥寺の博物館。日本はユーラシアの吹き溜まり。純粋日本人はいない。
 環境か遺伝か。環境は社会主義を生んだ。遺伝は差別(ヒットラー)を生んだ。20世紀はこの二つの失敗の世紀だった。
 数字:原油の入着価格の表と国際商品市況の謄落状況の表から。
 ・「ドル建ての価格は2011年109ドルと2112年114ドルと変わっていないが、2011年、2012年の1ドル80円が2013年8月は円安の98円であり、2011年8689円 が、2013年8月には10543円と上昇している」円安のインパクトでエネリギーの輸入代金が大きく増加。6兆円の増加へ。
 ・「2005年対比で国際商品市況は原油(2,41倍)、金(3.64倍)など値を上げている。食糧も高騰している。小麦3.77倍、トウモロコシ3.85倍、大豆  2.94倍、砂糖2.41倍、コーヒー2,86倍、、。」過剰流動性資金が資源と食糧に向かっている。食糧価格の高騰が途上国の経済を直撃。イスラム諸国の暴 動のきっかけとなったのが食糧の値上げ。


<今日の出来事>
・20年に一度 伊勢神宮 最大の神事 。伊勢神宮は20年に一度の大切な時を迎えた。三重県にある伊勢神宮天照大神を祀る日本を代表する神社。その伊勢神宮で20年に1度行われてきた式年遷宮は社殿などを新しく造り替える行事。

(10月2日生まれの偉人)
◆円地 文子(えんち ふみこ、本名(富美 ふみ)、1905年(明治38年)10月2日 - 1986年(昭和61年)11月14日)は、日本の小説家。代表作『女坂』は戦時中に刊行されているが、戦後は少女小説、通俗小説などを生活のために多く書き、1960年代からようやく評価されるようになる。日本の古典文学については、平安朝から近世まで詳しく、女を描いた小説と『源氏物語』など古典の造詣により評価され、文化勲章を受章した。『源氏』現代語訳は、与謝野晶子(与謝野 晶子(正字: 與謝野 晶子、よさの あきこ、1878年明治11年)12月7日 - 1942年(昭和17年)5月29日)は、日本の歌人、作家、思想家。)、谷崎潤一郎http://d.hatena.ne.jp/ks9215/20130714)に続くもので、新潮文庫に入りかつて広く読まれた。

<昨年の今日>http://d.hatena.ne.jp/ks9215/20121002