稲盛和夫の『燃える闘魂』から日本の再生を考える。4月もなかば。『まっすぐ無心に 人生を診る 外科医 笹子三津留』

◆今の日本には十分な資金も、優れた技術も、真摯な人材もある。足りないのは『燃える闘魂』、「なにくそ、負けるものか」という強い思いだけである。一歩間違えば単なる精神論と受け取られかねないこの言葉が真実の重さを持った言葉に変わるのは、会社設立以来54年間、一度も赤字決算を出したことがない京セラの経営に携わり、日本航空の再建も見事に果たした稲盛氏の口から語られるからである。「『アベノミクス』で日本経済は再生するかどうか」が盛んに議論されているが、稲盛氏の著書では、「安倍晋三首相の積極財政、量的緩和、成長戦略の三本を柱とする経済政策「アベノミクス」への期待から、円安、株高が進み、景気に対する楽観的な見方も出ている。しかし、日本経済の再生には、そのような政府の経済政策よりも、むしろ人々の「思い」を変えることのほうが重要だと私は考えている。」と述べているだけである。
 著書の中で、近代日本が80年という周期で歴史的な変動を繰り返している、と稲盛氏が述べている。江戸幕府が事実上崩壊した1865年から日本は近代国家への道を歩み始め、1905年に日露戦争に勝利するまでの40年間は、殖産興業と軍備拡張によって近代国家の建設を目指した日本の上り坂の時代でした。欧州最大の軍事大国ロシアに勝利し、一気に国際舞台に躍り出た日本がとった政策は、さらなる軍備拡張で、軍事大国への道をひたすら歩み続け、第二次世界大戦の敗戦という悲劇的な結末を迎えたのが、日露戦争から40年後の1945年でした。この下り坂の40年の間に、「強兵」という国家の指針について根底から問い直すべきであったのに、勝利の美酒に酔い、さらなる自国の繁栄、領土の拡大を貪欲に求めた結果、日本は40年後に奈落の底に落ちることになった、と稲盛氏は述べている。一方、1945年の敗戦からスタートした戦後の日本は、国民をあげて経済復興に励み、「富国強兵」の「強兵」ではなく「富国」の方向に一気に傾斜していきました。そして、奇跡的な経済復興を遂げピークに立ったのが40年後の1985年でした。莫大な貿易黒字をあげ続ける日本に対して諸外国から日本の経済モデルの転換を求められ、本当であれば、ひたすら経済成長を目指す国の進路を根本的に問い直さなければならなかったにもかかわらず、バブル崩壊後も旧来通りの経済成長を続けるために財政出動を繰り返し、その場しのぎの経済政策をとり続けてきた。その結果、国債残高はGDP比200%を超え、もはや破綻寸前の状況にあり、早急に財政再建に取り組まなければ、1985年から40年後の2025年に日本は亡国の事態を迎えることになるのではないか、と稲盛氏は警告している。危機意識が欠如している点で、倒産した日本航空と日本経済は二重写しに見える、と氏は言っている。日本航空の社員は自分の会社が倒産しても、「倒産した」という実感がなく、どこか人任せの雰囲気があったそうである。それと同じように、今の日本では国家破綻の危機に瀕している現実を直視せず、誰もが自分には関係ない話だと思っている、と指摘している。
 6年後の東京オリンピックに向けて関連ビジネスは大きな恩恵を受け、五輪関連銘柄の株価は上がった。その経済効果は決して小さくない。自信を失いかけている日本人の心に明かりを灯し、夢や希望をもたらしてくれるその精神的効用にもまた大きなものがある。しかし、一方で、オリンピックは所詮一度きりの「お祭り」に過ぎない。安倍首相自身が『アベノミクスの第4の矢』などと言っているが、「オリンピック開催で日本再生にはずみがつく」と考えるとすればそれは安易。疲弊した地方で一度「お祭り」をやれば、その地域の経済は活性化するでしょうか。お祭りが終われば再び閑古鳥が鳴くことになる。お祭りで盛り上がった後だけに、寂寥感は一層増すでしょう。地域の活性化にとって「お祭り」は根本的な解決にはならないように、オリンピック開催と日本経済の再生は、「それはそれ、これはこれ」で分けて考えなければいけない。日本はこれから人口減少社会へと入っていく。高齢化も急速に進む。そのような社会に相応しい体制づくり、国づくりが求められているにも拘わらず、私たちの頭の中は、高度成長期以来の旧態依然とした「拡大志向」、「成長志向」のままではないか。オリンピックの準備に向けて、当初予算がさっそく膨らみ始めているようだが、懸念されるのは、ハコモノを作りすぎてしまい、「お祭り」が終わった後、それらが有効活用されずに、ムダな社会資本と化すことである。国づくりの長期ビジョンを欠いたまま、一度限りの「お祭り」を盛り上げるために社会インフラの整備にお金をかければ、将来に必ず禍根を残すことになる。ギリシャ財政問題や中国が抱える過剰設備の問題がいずれも2004年アテネオリンピック、2008年北京オリンピックの後に起こったことは、私たちに何かを教えてくれているはず。
 まず、気分の高揚が「自力」なのか、「他力本願」なのかの違い。アベノミクスでは、金融緩和でマーケットの環境を円安・株高に変えることにより、あるいはオリンピックという外部環境を利用して経済の再生を果たそうとしている。「外」を変えることによって人々の「マインド」が変わることを期待しているようだが、それは所詮、「他力本願」にすいぎない。
一方、稲盛氏が説く日本再生は、個々の企業の経営者の「何としても自分の会社を変えなければならない」という強い思いを基としており、外部環境に頼ろうとする気持ちはそこには微塵もない。逆に、政策やイベントの力に頼ろうとする「弱い心」こそが問題の原因をつくり、再生を阻んでいる第一の障害だと、稲盛氏はそう考えているようだ。アベノミクスと稲盛氏の「日本再生」についての考え方の違いは、「近視眼的」か「将来を見据えたものであるか」というところにもある。アベノミクスは概して将来起こりうるリスクや危機に目をそらし、目先の果実をとろうとする傾向があり、「日本経済の再生」と「景気回復」は本来全く別物であるにも拘わらず、両者を混同して、足元の景気を回復させることがいつの間にか政策の目標になってしまっている。消費税を上げることによって景気が悪くなることを極度に怖れつつも、消費税を上げることによる、足元の景気回復という目先の利益を優先する姿勢がそこにあり、それへの不安が多いようだ。それゆえ、値上げ後のパフォーマンスにはことかかず、デパートで買い物をする始末。
 日本人は危機感が希薄であることについて、稲盛氏は次のように指摘している。「現在の日本の企業経営者たちも、深刻な財政悪化や困難な経済状況に対し、わがこととしてとらえず、どこか傍観しているようにさえ見える。なぜ、危機と真正面から向き合わないのだろうか。」人間にはもともとリスクについて考えることはできれば避けたいという潜在的な意識がある。そのためリスクと向き合うことを誰もが無意識に避ける。また、溺れる者は藁をも掴むかのように、楽観論にすがりつく。たとえば、財政問題にしても、経済評論家が「日本は財政破綻しない」と論評すると、多くの人々が付和雷同するのは、そうした習性がベースにある。日本全体に危機感が希薄なのは、そんなリスクと向き合うことを潜在的に避ける習性に加え、日本人がもともともっている従順な性格も大きく関係しているように思える。世のなかにひとつの流れや特定の空気があると、「長いものには巻かれろ」式に、誰もがその流れに徒らに従うという日本人の特性である。
 安倍首相をはじめとした国家の為政者の危機感の薄さは、個人的な傾向というよりも日本人の平均的な姿を映し出しているのかもしれない、しかし、危機を正面から見据えず、避けてばかりいれば、危機発生のリスクは時間の経過とともに大きくなり、将来一層厳しい事態を招くことになることは明らかである。危機を乗り越えなければ本当の再生はやって来ない。危機を乗り越えるためには、まず最初に危機を真正面から受け止めなければなりない。稲盛氏が日本航空の会長に就任してまず行ったことは、「日本航空は倒産した」という現実を社員に共有してもらい、「自力ではい上がっていかなければならない。いままでみたいに誰も助けてくれない」という危機意識を共有してもらうことでした。まさに、日本経済の再生も同じである。長い目で見た日本の将来の再生を本当に目指すのであれば、直面する財政危機から目をそらさず、危機に直面している現実をしっかりと受け止めることこそ、再生の第一歩ではないか。アベノミクスが目指す再生後の日本とは、端的に言えば、「古き良き時代の日本」ではないか。「大胆な金融政策」とはバブル華やかなりし頃の日本を取り戻す政策であり、「機動的な財政政策」とは公共事業により起死回生を図った1990年代の日本を取り戻す政策であり、「民間投資を喚起する成長戦略」とは投資主導で奇跡の復興を遂げた高度成長期の日本を取り戻す政策であるようにも見える。アベノミクスとは復古主義的な色彩の濃い政策であると言えなくもない。
 一方、稲盛氏が目指している日本はこれとは全く違った姿をもったもの。「わたしは、日本経済はいまこそ価値観の転換をはからねばならないと考えている。再び経済を活性化させ、「富国」を目指すとしても、新しい考え方をもって、新しいあり方を模索しなければならない。」戦後の日本は、右肩上がりの経済成長のなかで、量的拡大をはかることで経済復興を成し遂げ、豊かな生活を築いてきた。それは、まさに奇跡の復興として、歴史に長く刻まれることであろう。しかし、今後、日本が存続していくためには、根本的な発想の転換が求められている。その新しい考え方とは、量的な価値から、質的な価値への転換である。言葉を換えれば、高品質の製品・サービスを提供することによる、「高い付加価値」の獲得を目指した経済のあり方である。この先、日本は少子高齢化、人口減の社会へと進まざるをえない。ならば、これまでと同じような量的な拡大を追う必要はない。質的向上を基軸に考え、ほかのどの国もまねができないような付加価値の高いものをつくり、サービスを行い、国内でも、海外でも売る。海外から日本にやってきた人々が、日本人の仕事ぶりを見て、質の高い商品やサービスを生み出していることに感銘し、日本人の暮らしぶりを見て、量的な豊かさではなく、質的に高い生活レベルに共感する。そのような社会を目指すべきではないだろうか。この本には、日本の社会が本当に目指すべき姿が描かれている。稲盛氏は、「量的な価値から質的な価値を求める社会への転換」と表現しているが、本来、「量」と「質」は相反するものではなく、「質」が高まればそれは「量」へと転化していくもの。質的な価値の高い商品は高い値段で売れるので、経済成長の量的な拡大につながっていく。人口が減少していく中で、何もせずに量的拡大が実現できた時代は終わった。労働者の質を高めることでしか量的拡大を実現する道は残されていない。労働者の質を高めるとは、経営者や従業員が創意工夫によって付加価値の高い商品やサービスを作り出すことであり、それは経営者や従業員の心が豊かになることによってはじめて実現できる。戦後の日本はまず中小企業の経営者や従業員の心の復興から始まった。その中小企業がモノを次々に作り出していき、日本はモノが豊かな社会へと変わってきた。しかし、やがてモノを作り出してきた心がおざなりになっていき、心がスカスカの状態でいつの間にかモノの豊かさだけを人々が追い求める社会になってしまったのが今の日本ではないか。もう一度、モノづくりの原点に戻り、日本人はまず心を豊かにすることから始め、モノづくりの国、日本の再生へとつながっていきたいものである。
<今日のトラックバック
・「「負けてたまるか。」と稲盛氏は「燃える闘魂」で語る。」http://d.hatena.ne.jp/ks9215/20140409/p1

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◆4月もようやく月半ば。母親との同居介護からまもなく1か月近くになる。自分はしゅうまつだが、それ以上にかぞくの疲れも相当なものである。今週中に実家に戻す予定。また再び、週末介護に出かけることになろう。ただ、依然と異なり、自宅で生活するのは困難かもしれない。そこをどうカバーするのかが課題であろう。まさに、これからが、介護の正念場といえよう。

◆『日本のコメ 輸出に挑む〜新たな市場はひらけるか〜』(2014年4月14日放送 19:30 - 19:56 NHK総合クローズアップ現代 」より)
 日本のコメを海外に輸出しようとする動きが広まっている。これまで富裕層向けの高級品としてほそぼそと輸出していたが、中間層へ新たな市場を拡大しようとている。ブランド米産地もコストダウンによって輸出に活路を見出そうとしている。コメの生産が増加する可能性と国内市場のコメの消費がさらに減少する可能性がある中で活発になっているのが海外へのコメの輸出。アジアの富裕層だけでな中間層まで市場を広げていこうとする開拓がすすめられている。香港は日本のコメの最大の輸出先。これまでは富裕層向けの高級日本料理店にウラれてきた。香港で食品輸入会社の社長をしている田村千秋さんはミルキークイーンなど6つの銘柄のお米を卸しているが、もう日本のコメは飽和状態になっている。日本食ブームの香港では大衆向けの回転寿司チェーンなどがあるがそこに日本のコメは使われていない。日本米に似せるように工夫した海外の安いコメを使っている。陳金榮さんは日本産のものを使いたいがは原価が高いと厳しいと述べた。
 日本米の市場を拡大するには価格を抑えて大衆向けにする必要がある。大阪の大手農機具メーカークボタでは研究を行ったところ、香港で本来の日本米の良さが出ていないことがわかった。高橋担当部長は現地精米することでより日本で食べたものと同じ品質で出せるはずだと述べた。炊飯の仕方に問題があることからコメとセットで全自動炊飯ロボットも売り出した。今や大衆向けのお店にも日本のコメが広がってきている。日本のコメ輸出について、ご飯と炊飯がキーワード。日本の炊きたてのお米の美味しさも教えながらコメを売り出さないと輸出拡大は難しい。今までは日本の農業界に内向きな発想があったと思われる。余ったお米を生産調整するという常識も世界とは違う。日本と同じ耕地面積のドイツ・はるかに小さいオランダは世界トップクラスの輸出国だ。ノウハウを蓄積することが大事。日本は輸出のノウハウがない。新潟県のコメ農家・坪谷利之さんは香港や台湾にコシヒカリを輸出している。コスト削減のために田植えをせずに稲を育てる直播という栽培方法にチャレンジしている。中でも種もみを鉄粉でコーティングするというものだ。いつまでも新潟米が生き残れるとは限らないと坪谷さん。
 兵庫・西宮市の大手米卸商社・神明では販路拡大のため7年前から輸出に取り組んでいる。輸出用の安い米は全国の農協や農家と交渉し買い付け、売り先は海外に暮らす日本人を始めとするヨーロッパやアフリカなど28ヶ国。コメ卸商社藤尾益造常務は、売れないと思っていた農家の方が輸出米は売れるんだと見直しているので十分交渉できると思っているとコメントした。ところが、輸出用の安い米を集められなくなっている現状で、お米を確保したいという意見に対し、仕入れ担当者はこれ以上の増産に農家が積極的ではないと答えた。農協としても輸出はしたいが、農家の手取りがネックになっており農協単独では決定できないとのこと。仕入れ担当者は大口取引先の富山・入善町のJAみな穂農業協同組合を訪れた。この農協の輸出米の量は年間およそ200トンであり全国2番目の規模。米卸商社仕入担当者は昨年の倍くらいの数量に取り組んで頂きたいと伝えるたのに対し、倍近くいけるパイを持っているが価格が問題だとJA担当者は答えた。輸出用の米は減反で作付が制限された田んぼだけで作ることが許され、加工米などの作付も認められている。これらには補助金が付くが、輸出米には付かず国内での販売も許されいてない。農家は積極的に輸出米の作付けに乗り出せないので対策として、値段の異なる加工米も輸出米も全ての売上を一度農協にプールし、生産者に平等に分配するという策を打ち出した。JAみな穂細田勝二組合長は、これからどういう時代が来るか分からないし、輸出をやめた場合に次復活というのは簡単でなく積み上げてきたものを維持することが必要だとコメントした。
 日本に入ってくる海外の米は1キログラムあたり約140円であり日本は240円くらいで生産している。日本の生産コストを3割削減しても海外とまともに競争はできないが、品質で対等にやれる。稲作自体は後継者がおらず、あと10年で農家数はおよそ半分になるので、効率的な農業をする必要があり、海外展開もひとつの戦略である。減反政策は米生産にブレーキをかけているが加工米などはアクセルをかけておりちぐはぐした政策を日本は行っている。米農業はチャレンジすることが大切であり、米だけでなく野菜などへ展開の可能性もあり日本の農業を活発にしてほしいと宮城大学特任教授大泉一貫さんはコメンとした。


◆『まっすぐ無心に 人生を診る 外科医 笹子三津留』(2014年4月14日放送 22:00 - 22:50 NHK総合プロフェッショナル 仕事の流儀」)
 兵庫・西宮市にある大学病院へつとめる笹子三津留さん。笹子さんは7年前まで国立がん研究センターに勤務、そこで2000を超える手術を行い副院長にまで上り詰めたが、患者と向き合うため地位を捨て大学病院へやって来た。他の病院では治療が難しいといわれた患者が笹子さんのもとへやってくる。胃がんは発見が遅れると治療が難しいと言われているが、「がんに絶対はない」という信念を持っている笹子さんはどんなに難しい手術にもひるまない。この日行った手術の患者は複数の転移もあり、難しい手術、笹子さんは慎重にメスを入れた。胃ガンはリンパ節に転移が起きやすく、そこからガンが広がってしまう。しかもどのリンパ節に転移しているかは最新機器でもわからないため、全てを取り除かなければならない。笹子さんはがんの転移した場所を研ぎ澄まされた指の感覚で察知、通常生存率が30%と言われる手術においても50%を超える数字を出している。手術開始から2時間半がたち笹子さんは37のリンパ節を含む脂肪を取り除くと、胃の3分の2を切除した。笹子さんは胃がんの治療において笹子さんは患者への説明にも徹底的にこだわっており、発生率が1%にみたないようなリスクでも必ず患者に伝え、患者が納得するまで丁寧に説明する。笹子さんは「ブラックジャックのような世界ではない。僕にまかせてくれたら必ず助かるとは言わない。」と話した。
 1月28日、笹子さんのもとにやってきた大西鉄雄さんは、昨年末に進行したガンが見つかった。大西さんの胃の壁は多く腫れ上がっており転移の可能性も高く、さらにすい臓と胃がくっついていることからすい臓に転移している可能性も発覚した。手術当日の2月19日、病室には大西さんの家族が集まった。手術がスタートすると笹子さんは慎重にメスを挿入、リンパ節を全てチェックし、胃の裏側へとメスを進めた。1時間半後にすい臓と胃の境目を発見、すい臓にはがんは転移していないと笹子さんは判断した。笹子さんはすい臓を覆う皮膜を慎重に剥ぐと手術開始から3時間、すい臓を傷つけずにガンを取り除くことに成功した。手術から40日がたち大西さんは元気にしている。
 部屋で一人でいる時に笹子さんは今までの家族や患者からもらった手紙を読み返すという。手術後にトライアスロンに出れるようになった患者からはメダルをもらったこともある。笹子さんは昭和25年に兵庫・西宮で誕生、19歳の時に医師の道を目指すようになった。激動する時代の中で医師ならいつでも人の役にたてると思ったという。医師になり3年がたち、笹子さんの父親に末期の肝臓がんが発覚、笹子さんは治る病気だとごまかし続け結局最後まで明かさないまま父親は他界してしまった。笹子さんはこれで本当に良かったのかと葛藤する中で必死に腕を磨いたが、患者にとって納得の出来る医療は何なのかその後も悩み続けたという。37歳で国立がん研究センターに移った笹子さんは患者にはごまかさず全てを伝えることを決意、最初は仲間内で批判を受けたというが、それでも笹子さんは学び続けた。そんなある日笹子さんは夫の胃がんが進行している状態の老夫婦に出逢った。笹子さんは持てる技術を尽くして手術を行い、術後体調は持ち直したが1年後に新たに膀胱がんが発覚。笹子さんは治療法がないことを伝え残りの日々を大切にするよう伝えた。
 翌年夫が先立つと妻から笹子さんへ一通の手紙が届き、そこには「先生には内緒でワクチン注射をしていたが効果はなかった。何かがあると安心するような気がしたが先生には恥ずかしくて言えなかった。」と綴られていたという。これを見た笹子さんは「こんなことが患者さんの中で起こっていたのかと思った。」と泣きながら振り返った。久保友之さん(77)は人間ドックで胃がんが疑われ、1月28日に笹子三津留を訪ねた。久保友之さんはかつて阪神タイガースにピッチャーとして入団した経歴をもち、退団後は審判として活躍した。友之さんには、41歳になるダウン症の息子がいる。その息子と1年でも長く一緒に暮らすことが久保さんの願いだった。2月4日久保さんの手術方針を話し合う日がきた。久保さんは、自分が命に関わる病気にかかったことを理解してもらうため、息子の駿幸さんを連れてきた。胃の3分の2とリンパ節を取り除く手術が必要があるが、肺の機能が著しく悪い。さらに、心臓や肝臓なども弱っており、合併症が起こる危険性がある。2月12日手術前日を迎えた。友之さんは息子の駿幸さんのことを気にかけていた。生まれてから41年、身の回りの世話を一日もかかさず続けてきた。2月13日手術当日、笹子三津留は手術室に向かった。肺などに不安を抱える久保さんには、できる限り体に負担をかけない方法で手術を進めなければならなく、その上で転移したガンをすべて取り除く。今回は腹部を開かず、小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術を選んだ。しかし、開始直後、肝臓を少し持ち上げただけで大量の出血がはじまり、想像以上に状態が悪いことが分かった。ただちに止血した。再発防止にはリンパ節の切除する必要があるが、肝臓を弱っている状態でリンパ節を摂り過ぎると合併症を起こしかねない。笹子三津留は、3分の1のリンパ節を諦める決断を出した。手術から12日後、心配された合併症は起こらず久保さんは無事退院することが出来た。手術から1カ月後、検査結果再発の可能性が低いことが分かった。笹子三津留の決断は間違っていなかった。
 プロフェッショナルについて笹子三津留は、「自分の技術の世界で、常に進歩する余地を求め続ける人であり、 自分が到達した技術学んだ経験を次の世代に伝えようとする人が本当のプロじゃないか」と話した。

<今日の出来事>
東京消防庁 大型消防ヘリ 就航式。東京都立川市で大型消防ヘリ「はくちょう」の就航式が行われた。東京消防庁は新型機も含めた8機のヘリコプターを運用。
人事院に初の女性総裁。国家公務員の人事管理を担当する人事院できょう、初めて女性の総裁が誕生した。女性初の人事院総裁となった一宮なほみ氏はきょう、安倍首相から辞令を受け取った。一宮氏は40年近い裁判官の経験を持ち、去年6月から人事院の幹部ポスト人事官を務めていた。

<本の紹介>
安倍晋三http://d.hatena.ne.jp/asin/4847091833 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4847091833/hatena-ud-22/ref=nosim
・新しい国へ 美しい国へ 完全版 (文春新書 903)http://www.amazon.co.jp/%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E5%9B%BD%E3%81%B8-%E7%BE%8E%E3%81%97%E3%81%84%E5%9B%BD%E3%81%B8-%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88-%E6%96%87%E6%98%A5%E6%96%B0%E6%9B%B8-903/dp/4166609033
・超金融緩和のジレンマhttp://d.hatena.ne.jp/asin/4492654526
・これからこうなる日本経済、世界経済~「通貨の近現代史」で読み解く!http://d.hatena.ne.jp/asin/4537260467

<昨年の今日>
・「とうとう薩長密約が。会津は窮地に追い込まれる。」http://d.hatena.ne.jp/ks9215/20130414/p1