セオドア・ルーズベルトの言葉。「トラブルを解決する力〜コンフリクト・マネジメントのすすめ〜」

◆『重要なことは、批評する者ではありません。強い男のつまずきを指摘したり、立派な仕事をした者にケチをつけたりする人間でもありません。真に賞賛しなければならないのは、泥と汗と血で顔を汚し、実際に戦いの場に立って勇敢に努力する男。努力に付きものの過ちや失敗を繰り返す男です。
 しかし、彼は実際に物事を成し遂げるため、全力を尽くします。偉大な情熱と献身を知っています。価値ある大義のために全力を傾け、最後には赫々たる勝利を収めます。例え、敗れる時があっても敢然として戦いつつ敗れます。だからこそそういう男を、勝利も敗北も経験しない無感動で臆病な連中と断じて同列に並べるべきではありません。』
    第26代米国大統領セオドア・ルーズベルト(Theodore D.Roosevelt, 1858年10月27日 - 1919年1月6日)

◆「トラブルを解決する力〜コンフリクト・マネジメントのすすめ〜」(鈴木有香氏)
●コンフリクト・マネジメントとは
「コンフリクト・マネジメント」とは、意見の対立についてどう対処するかということです。電話とかで苦情対応があったりしたときは、声がとても大切です。笑顔で丁寧に話そうという気持ちがあると、何となく快い声も出ます。「にこやかに」を心がけて実践しましょう。
●トラブル回避テクニック1
  他人との共通点が見つかると、誰でも自然に、肯定的な気持ちとか、この人とは話が通じるんじゃないかという気持ちを持ちます。だから、対立している相手と自分との共通点を、最初の雑談で探しておきます。「ここは違いますけれども、この点は共通していますよね。」と言って、話の流れを変えることができます。
 対立しているのは、ある点だけで、全人格が対立しているわけではありません。
●それでもトラブルになったら・・・・トラブルこそ成長のチャンス
 他人と意見が対立すると、最初は否定感情がおきますが、良い点もあり、自己成長につながります。(良い点)
・考え方がたくさんあるということを知るきっかけになる。
・他人に対して理解が深まると同時に、自分の意見を声に出して言ったことで、自分のことも気づく。
心理的な発達を促す。他人の見解を吸収することによって、より自分の考え方の枠が広まる。
●問題を先送りしない組織が生き残る
  対立を起こさない組織ほど、かえって危ないと言えます。問題を先送りしないで対処した組織は、人間関係が強まり、そしてモラルを向上させるチャンスにもなります。
 食品偽装が問題になったことがありました。現場では偽装を知っていたわけです。だから、「それはだめです。」と言えば良かったのに、黙ってしまって問題を起こしました。今、コンプライアンス法令遵守)が高まってきますから自浄作用がなくなった組織はつぶれていくでしょう。小さいトラブルに対処していく、ということが組織の維持でも重要になってきます。それから最後に、そもそも全員が同じ意見だったらどうでしょう。つまらなくないですか。
win-winの解決方法に必要なもの
 (win-winの意味を身体エクササイズを使って紹介)
 まず勝ち負けじゃなく、お互いが満足するためにはという視点がないと、正解には行き着きません。お互いが協調的に問題解決するために必要なのは、1、発想の転換、2、それを気づいたほうが、今度は丁寧にコミュニケーションをとる。3、信頼関係、この3点セットです。勝ち負けという意識を捨てることが必要です。
●問題分析の視点は? 「立脚点」「ニーズ」「世界観」で分析する
「立脚点」:意見と意見が最初にぶつかる点
「ニーズ」:本当は何を欲しているか。意見の理由になるところ
「世界観」:主義
(例題)「オレンジが1個あります。お姉さんが1人います。妹が1人います。お姉さんは言いました。オレンジが1個ほしい。妹が言いました。妹もオレンジ1個ほしい。でも、オレンジは1個だけです。さあ、どうしますか。」
 それぞれがオレンジを1個欲しい、というのがぶつかっている点ですね。これが「立脚点」です。
 次に、話し合いで調べなきゃいけないのは、オレンジを欲しがる理由、「ニーズ」です。「お姉さんはマーマレードをつくりたい。妹はあぶり絵をしたい。」お互い何がしたいかさえわかれば、分け方がわかります。つまり、あぶり絵をするのなら、妹にジュース絞らせてから、残りを全部お姉さんがもらっちゃえば、マーマレードはできる。
 大切なことは、「ニーズ」。ここに解決の糸口、協調的問題解決、合意形成の種があります。
 「オレンジを食べたがっている。」という先入観が問題で、コンフリクトが起きやすいのです。
●「立脚点」と「ニーズ」
(事例)「立脚点」と「ニーズ」で分析してみよう。どこでぶつかっていますか?「世界観」は?
ロハスな母1】
◇浅川先生 本日はお忙しいところお越しいただきましてありがとうございます。
◇母親 いいえ。
◇浅川先生 どうぞ。
◇母親 どうもすみません。うちの清が何か問題でも。
◇浅川先生 問題ということはないんですけれども、お弁当のことで。
◇母親 お弁当ですか。彼が子どものときから、私も授乳時から無添加・無農薬を心がけて、食品って大切じゃないですか、だから、ほんとに彼のお弁当作りには命がけなんですよ。
◇浅川先生 はあー。
◇母親 やっぱり私自身もいろいろあったので、私も大学院やなんかでは、食品科学を専攻していまして、そういったものを家庭でお弁当作りに生かしているわけなんですよ。こちらでは、安全な食材を手に入れるのは需要ですからね。
◇浅川先生 確かにお子さまの健康に大切に考えていらっしゃるということはすばらしいと思うんですけども、学校には給食というものがありまして、アレルギーなどの特別な理由がない限りはですね、皆さんと一緒に給食を食べて……。
◇母親 何をおっしゃっているんですか、給食なんかより、私が細心の注意で無農薬・無添加のお弁当のほうがもちろんすぐれて、彼、うちの清の健康にはとってもいいと思いますのよ。私の研究の成果なんですから。
◇浅川先生 一応給食は栄養士がバランスのいい食事を調えていますし……。
◇母親 だけど、栄養士さんなんておっしゃったって、給食には予算というものがあるでしょう。私なんて無尽蔵にお金を使って最高のものを作っていますから。
◇浅川先生 お母さま、給食というのは食事だけではなくて、集団生活を学ぶ場でもありますから。
◇母親 あら、集団生活なんて、別に給食を食べなくたって、集団生活はいくらでも学校で学べるでしょう。
◇浅川先生 そうですかね……。でも、みんなと同じものを食べないことが、今後いじめなど発展しないかと。
◇母親 ちょっと待ってくださいよ。みんなと一緒に同じものを食べなかったら、いじめになる! 学校の指導力ってそんなものなんですか。
◇浅川先生 そうじゃなくて、みんなと同じものを食べることや、生活することが一つの教育の場ですから。
◇母親 そんなふうな教育だったらひどいわ! みんなと同じにしないのだったら教育にならないのだったら、そんなこと言う先生、何考えているの! 訴えてやる! 裁判で決着しましょう! 裁判よ!
●まずは立脚点を探そう
  まず、ぶつかっている点です。先生の立脚点、先生の主張は「給食食べなさい」。お母さんの立脚点は?「給食、食べさせたくない。」です。
●「ニーズ」は隠れていることも
Q1: 先生は、なぜ給食を食べてもらいたいんでしょう?
A1:  「集団生活を学んでほしい。」「いじめの発生の可能性は除きたい。」
Q2: では、どうしていじめの発生の可能性を取り除きたいんでしょう?
A2: 「トラブルを避けたい。」
Q3: なぜトラブルを避けたいんでしょう?
A3:「学校の責任問題になるから。」
 大切なことは、本人の言葉で出ているもの以外に、仮説を立て、話し合いの中でニーズというのを確認していくことです。
Q4:では、お母さん側のニーズは?
A4:お母さんにとっては、ニーズは「子どもを健康にさせたい。」です。
●「世界観」を考えてみよう
 お母さんの世界観、お母さんの主義とか主張はどうでしょうか?お母さんにとって、みんなと一緒というのは全然意味のない言葉なんです。しかし、先生側は、個人主義より集団行動が大事と考えている。このところで、個人が大切、集団のほうが大切とやり合っても意味がありません。
 これはコミュニケーションスキルを使わないで、ただ普通にやっちゃうとこんな感じになるという例です。ニーズを探っていくところが、実は苦情処理やなにかでも重要なところで、相手は表面上ではそう言っているけど求めている点は何なんだろうというのを調べていきましょう。
 次はコミュニケーションの問題に入っていきます。
●相手を否定しない
  一番重要なのは、否定しないで受け止めるということ。相手に賛成することではありませんが、「おっしゃっていることはこうですね」というふうにまとめる(パラフレーズする)ことはできます。
 もう一点重要なことは、相手のニーズに焦点を当てて、前向きなパラフレーズにもっていくということです。
◇保護者 大体学校の事務員の応対はなっていないですよ。20回コールしても出ないんだよ。そんなの一般企業じゃあり得ないことですよ。
◇教員A 20回もコールし続けて事務員が出なかったので、非常に腹立たしく思われたんですね。(×)
◇教員B 電話をしたとき、すぐに事務員が出て対応してほしかったと。 (○)
  「非常に腹立たしい」という否定感情を言うと、相手は不快になりますが、「実はあのときこうしてほしかったんですね。」と言うことによって、こちらが相手のニーズをわかっているということを伝えることができます。
●質問で掘り下げる
 次に必要な情報を収集します。
 まず「どう思いますか。」という質問で大きな情報をとります。その次に、掘り下げの質問で曖昧なところをはっきりさせます。丁寧な情報収集をしながら、事の真偽をつかむと同時に、相手についても徐々に判断していく。
 もう一つは、電話のときには、言葉、声だけがすべてなので、やさしくて、簡単な言葉で情報収集してください。
■クレーム処理の初期対応ーとりあえず謝る、最後は感謝の言葉で
 苦情対応の初期ステップでは、とりあえず謝罪を示しつつ、まず自分を名乗る、そして問いかけていく、そして相手を認めていく。相手の気持ちや、内容についての承認を示しつつ、建設的提案を提示していく、小さなことで次にできることを提案するということが重要になってきます。
 そして、会話の終了は感謝の言葉で終わらせるというところがテクニックです。
パラフレーズを上手に使った例
 パラフレーズと質問のところだけをとりあえず上手に使ったらば、どういうふうに会話が変わるでしょうか。
ロハスな母2】
◇浅川先生 どうもお忙しいところ来てくださってありがとうございました。
◇母親 いいえ。それで何ですか、転校早々、うちの清がなにかいじめとかそういう問題が起きたんですか。
◇浅川先生 いじめとかはありません。ただ、お弁当のことで……。
◇母親 お弁当ですか。お弁当は子どもが授乳時から無添加・無農薬を心がけていまして、食品問題は大変ですよね。ですから、彼には安全な食品をあげようと、だから、子どもはアレルギーとかないんですのよ。
◇浅川先生 お母さまとして、お子さんの健康に大変細心の注意を払っていらっしゃるんですね。
◇母親 そうなんですよ。私自体もアレルギーで困っちゃったから、大学院では、食品科学を専攻しましてね……。
◇浅川先生 お勉強されていたんですか。
◇母親 ええ、まあ。前の県では、大学で消費者組合の方とか、農業組合の方とも勉強会なんか開いていたんですの。
◇浅川先生 ご専門なんですね。
◇母親 ええ。
◇浅川先生 それでこちらのP県に引っ越してこられたのは、そういったご専門となにかご関係があるんですか。――すみません、立ち入ったことを聞いてしまったようで。
◇母親 いえね、私じゃなくて、夫の転勤なんですよ。私自身も大学で勤めたかったんですけど、子どもが小さいうちに別居するのもなにかと思いまして、それでG県とP県で選択はあったんですけれども、地産地消とか消費者運動NPOはP県がということで、P県にしてなんて主人に言って。
◇浅川先生 お母さまとして、ご自身のキャリアや専門などを生かしていたわけですね。そういうことで、いろいろと悩まれていらしたんですね。それで、今回のお弁当ということが小さな実践の一つでもあったということでしょうか。
◇母親 まあ、そうですね。お弁当作りでちょっとしたことがつなげればとか……。
◇浅川先生 それで、今回お呼び出しのきっかけとなりました清君のお弁当についてですが、お母さまとしては、今後学校給食に対してどのようにしてほしいなどお考えはございますか。
◇母親 確かに学校給食という点では、バランスなどを考えていらっしゃるけれども、やっぱり献立をいただいても、一体このすべての素材が本当に安全かという確信が持てないんですよね。
◇浅川先生 といいますと? ・・・・・・・
●最後に
 これは単なる提案です。まずニーズを探る、そしてできるだけ情報収集をする、その後でなにか解決案を出すという、ちょっとプロセスを丁寧にする中で見えてくるものがあると思います。どうもありがとうございました。

 なお、今回の研修内容について、より深く学びたい方は、「人と組織を強くする交渉力」(鈴木有香著、自由国民社)や鈴木有香講師のブログ「チェンジザ コミュニケーション」(http://www.quon.asia/yomimono/business/change-communication) をご参考にしてください。

<昨年の今日>「改めて管理職である自分に問う。「『個力』を生かすチームワーク」とは。」http://d.hatena.ne.jp/ks9215/20130508