4月から民法大改正(週刊朝日より)

 約120年ぶりに大改正された民法が4月から施行され、変更点は約200項目に上り、お金と暮らしに関するルールが大きく変わる。
 今回の改正で注目されるのは、お金のやり取りを伴う契約のルールを定めた「債権法」という規定。民法が制定された1896年以来、初めて大きく見直される。民法に詳しい吉田修平弁護士はこう解説する。
「貿易の増加やインターネット取引の普及に伴い、時代に合わなくなった部分を補うのと、消費者を守る目的があります」
 変更点は多岐にわたり、暮らしに影響するものも多い。民法を所管する法務省は、桃太郎をモチーフにした漫画で改正点を解説するなど、PRに力を入れている。
 変更点をみていこう。お金を請求できる期間(時効)は原則5年に統一される。今までは飲み屋のツケなど飲食費は1年、電気代は2年、病院の診察代は3年など、契約の種類ごとに異なっていた。
 この期間を過ぎると請求できる権利はなくなる。飲食店の経営者は1年を超えると、ツケを払ってもらえない恐れがあった。5年に統一されることでトラブルが減ると期待される。
 時効の変更に合わせて、給料を取り戻せる期間も変わる予定だ。未払い残業代などをさかのぼって会社に請求できる期間を、2年から3年に延ばす労働基準法改正案が国会で議論されている。本来はほかの契約と同じ5年になるはずだが、国が企業側に配慮し、「当分の間」は3年とした。
 認知症などで判断力が落ちている人が結んだ契約は、無効になることも明記された。これまでも判例などで無効とされていたが、法律ではっきりさせた。
 ネットでの通信販売やサービスが増えたことへの対応もある。契約に同意するボタンを押せば、「約款」を全部理解していなくても契約が成立したことになる。ボタンを押しても消費者に一方的に不利な内容の場合は無効になるが、これまで以上に注意を払う必要がある。
 賠償金などの計算に使う「法定利率」は年5%から3%に下がる。賠償金などの支払いが遅れた場合にもらえる遅延損害金は減る。逆に、交通事故などで相手に後遺症を負わせた場合は、支払う損害賠償額は増える。
 他人の借金を肩代わりする保証人についてのルールも新しくなる。借金を返済できなかったり、家賃を払えなくなったりした場合に、保証人に請求できる上限を、あらかじめ決めておかなければならない。契約書などに金額が明示されていなければ、契約そのものが無効になることもある。
 個人が事業用融資の保証人になるには、原則として法律の専門家である公証人による意思確認が必要になる。保証契約を結ぶ1カ月前までに、「保証意思宣明公正証書」をつくる。保証債務を履行するリスクなどについて、きちんと理解しておくことが前提となる。
 この制度は3月1日から始まっていて、公正証書をつくる手数料は保証する金額に関わらず1件につき1万1千円。
 保証人のルール変更は、アパートやマンションの賃貸借契約にもおよぶ。気になるのは、保証の上限額がどのくらいになるか。法律の専門家は、過去の判例で認められた連帯保証人の負担額が目安になると指摘する。
国土交通省によると、連帯保証人の負担額は平均で家賃の13.2カ月分、中央値で12カ月分です。保証人が肩代わりする上限額は、家賃の半年~2年分くらいが妥当ではないでしょうか」(法曹関係者)
 貸し手が損をしないように、上限額をより高めに設定することも考えられる。契約書で示された上限額を見て、保証人になるのを断る人も増えそうだ。保証人が見つからなければ、お金を払って保証会社を利用することになり、借り手の負担が高まる。

 (週刊朝日  2020年4月3日号より抜粋)